パンデミックの恐怖 後編
報道で時折耳にする、鳥インフルエンザ。
実は、世界中が神経をとがらせている史上最悪の感染症。
新型インフルエンザとは違う、全くの別物。
ちなみに新型インフルエンザとは、今までヒトからヒトに感染能がなかったインフルエンザが、感染能を獲得した場合の呼称。
鳥インフルエンザとは
インフルエンザはもともと、鳥に感染するウイルスだったと考えられている。
それが変異をおこすことで、ヒトやブタなどの他の哺乳類に感染する能力を得たらしい。
インフルエンザはもともと水鳥の感染症が変異し、ヒトへの感染能を獲得したもの
50年ほど前から、低病原性のインフルエンザは家禽などで確認されていた。
一般的にいう鳥インフルエンザはA型インフルエンザ。
ところが、近年、鳥インフルエンザに強毒性を持つものがあらわれた。
高病原性のインフルエンザで近年警戒されているのは、H5N6・H7N9・H5N1。
特にH5N1がヒトへ感染した場合の毒性はすさまじく、現在までの死亡率は60%。
人類が今まで経験したことがないレベルの強病原性である。
特に若い人へ感染した場合、その強毒性により免疫系が暴走し、臓器不全で死に至ってしまうことが大きいのが恐ろしいところ。
このような暴走を、サイトカインストームという。
現在、鳥から人への感染は見られるが、ヒトからヒトへの感染能は有していない。
これが変異して、ヒト・ヒト感染がおこるようになったときに、未曽有のパンデミックがおこると考えられているのだ。
変異と病原性
変異により人間に感染するようになるには、いくつかこえなければならないハードルがある。
現在流行している季節性のインフルエンザは、低温の上部気道での増殖に適している。
対して、現在のH5N1は、トリの腸内といった高温の環境での増殖に適しており、ヒトの上部気道の低温環境には不向きである。
ところが、H5N1が上部気道向きの形質を獲得するには、PB2蛋白質の627番目のアミノ酸変化があるだけで良い。
また、他のヒトに感染しやすいタイプのウイルスとの大変異においては、実験では割と容易にヒトへの感染性を獲得できている。
今までは、ヒト・ヒト間での感染性を獲得した株は、毒性が下がると考えられていたが、実験ではさらなる強力な毒性を有する株が発生することが確かめられている。
パンデミックはおこるのか
人工的なウイルス操作による実験で、ヒト・ヒト間の感染能を有するH5N1が誕生する可能性が十分あり、その危険性は、変異を繰り返してきているため、上昇する一方である。
ちなみに変異する場所は、ヒトの体内ではなく、トリやブタなど、ヒト同様のインフルエンザにかかる動物の細胞内。
変異した株が人に伝播して広がる速さは、2009年の新型インフルエンザを思い出していただければ良いと思う。
政府はいざというときのために、想定されるウイルスに対するワクチンやタミフルの備蓄と、新型の抗インフルエンザ薬に対して異例ともいえる素早い認可をしている。
私の見解としては、十分におこりうる、いつ起こってもおかしくないと考えている。
私が知る限りでも、結構な数の知り合いの医師などが、個人的にタミフル・リレンザ等の抗ウイルス薬を備蓄している。
多少の医学的知識を持つ人間にとっては、パンデミックはいつ起こってもおかしくないと考えているようである。
おこらないにこしたことはないが、パンデミックはいつかはおこるもの、と思っておいた方が良いかもしれない。
インフルエンザ 完