パンデミックの恐怖 前編

インフルエンザはありふれた疾患だが、毎年多くの死者を出す感染症。
変異を繰り返しているうちに、時として非常に毒性の大きい株が生まれることがある。
世界一次大戦中に広がったスペイン風邪は、まぎれもなくインフルエンザ。
当時の世界人口20億人弱に対して、感染者5億人、死者は5千万人から1億人とされる。
いかに致死性が高く、毒性が強かったかがわかる。

このようなパンデミック(世界的流行)をおこすインフルエンザがどのように生まれるのかを解説していく。

ウイルスの変異

インフルエンザウイルスはその不安定さゆえに、変異を続ける。
人に感染するインフルエンザには、A型・B型・C型などがある。
さらにウイルスを構成する8つの遺伝子のうち、ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)をコードする遺伝子の種類によって分類される。
例えばスペイン風邪はH1N1というように分類されるが、さらに小さな変化により多くの亜型が存在する。

その変異には、小変異と大変異がある。
それぞれ抗原連続変異、抗原不連続変異ともいう。

小変異

遺伝子の塩基におきる小さな変異によるもの。
例えばH1N1の中でおきる小さな変異のため、H1N1ではあるが、亜型であるため分類は同じ。
いわばマイナーチェンジである。
iPhone8なら、初期生産型と、後期生産型といったロット違い。
それでも人間の免疫をくぐり抜けるには十分なため、毎年のように流行を繰り返す。
普段我々が経験しているインフルエンザの流行は、これのせい。

小変異のイメージ
インフルエンザの小変異

大変異

時としてウイルスは遺伝子のユニット丸ごと変化する場合がある。
H1N1とH5N2の2つのウイルスから、H1N2が生まれるといった具合である。
2つのタイプのウイルスが同時に同じ細胞に感染した場合などにこのような変異が起きる。
このような変異は、同じインフルエンザにかかる豚や鳥の体内でもおこる。

大変異のイメージ
インフルエンザの大変異

多くは生存上不利であったり、感染性が低かったりすることで淘汰される。
しかし稀に十分な感染性と増殖性や毒性を備えた、全く新しいタイプのウイルスが誕生する。
これがいわゆる新型インフルエンザ。
いわばフルモデルチェンジ。
iPhoneなら、7から8に変わるようなもの。

こうなると人類はまったく新しいタイプのウイルスに邂逅することになり、2009年の新型インフルエンザ騒ぎのようなパンデミック騒動になることになる(幸い、その時は毒性が低かったので大したことにはならなかった)。

現在、世界の医療関係者が気をとがらすのが、鳥インフルエンザのように強毒型のウイルスが変異して、人類に脅威を及ぼすようになることである。
次回は、この鳥インフルエンザについて解説する。

続きます