インフルエンザの対処法 後編

抗ウイルス薬

細菌に対して人類は抗生物質という絶対的な切り札を手に入れるに至った。
ところが、細胞という実体を持たないウイルスに対しては、なかなか対抗する手段が見いだせず、ワクチンの接種が主だった手段であった。

しかし、DNA,RNAなど核酸の研究が進むにつれ、徐々にウイルスの仕組みが解明されてきた。
そして今世紀に入り、ウイルスに対する製薬が次々と実現する。

エイズ(HIVウイルス)はもはや死の病ではなくなった。
インフルエンザも、抗ウイルス薬が続々と登場しつつある。

ノイラミターゼ(NA)阻害薬

インフルエンザの治療薬の主役。
薬品としては、オセルタミビル(商品名:タミフル)、ザナミビル(商品名:リレンザ)などがある。

ウイルスは宿主の細胞にもやい(係留索)のようなもので結合している。
増殖して細胞から出ていくときに、このもやいを切断する必要がある。
この切断に使う酵素こそ、ノイラミターゼ。
これを妨害するのが、NA阻害薬。

錨の抜けない船が出港できないように、ウイルスを宿主細胞から出れなくしてしまう。

これがインフルエンザという感染症において意味があるのは、ウイルスが爆発的に増える前。
体内で被害を受ける細胞をできるだけ少なく留め、抗体がつくられるのを待つという戦術。
それゆえ、薬が意味を持つのは、感染後48時間以内。
それ以降では、すでに体内で発症する十分な数が増殖していて、効果が感じられない。

NA阻害薬のエース・タミフル
タミフル

吸入式のリレンザ
リレンザ

エンドヌクレアーゼ阻害薬

この春発表された全く新しい抗ウイルス薬。
塩野義製薬が開発したバロキサビル、商品名ゾフルーザ。

NA阻害薬が、ウイルスの細胞外への放出をおさえるのみで、増殖自体を止められなかったのに対し、こちらは増殖を阻止する。
ウイルス増殖に必要なエンドヌクレアーゼを阻害する。
ただし、体内に発症に十分なウイルスが放出される前に服用する必要があるのは、NA阻害薬と変わらない。

RNAポリメラーゼ阻害薬

鳴り物入りで発表された抗ウイルス薬。
富士フィルムが開発したファビピラビル、商品名アビガン錠。
ニュースでしきりに発表されていたのを、覚えておられる方もおられるかと思う。
この時富士フィルムの株価が爆上がりした。

エンドヌクレアーゼ阻害薬同様、増殖自体を阻止する。
インフルエンザだけでなく、史上最悪のウイルスであるエボラウイルスやノロウイルスさえ標的にする。
臨床データは十分とは言えないが、アメリカ国防総省が耐バイオテロへの対抗手段として大規模に臨床試験をすすめている。
日本で認可はされたが、製造は、これ以外手がないという新型インフルエンザが出たときのみ可という、条件付き。
来たるパンデミックに対しての、切り札として温存する方針をとっている。

M2プロトンチャンネル阻害薬

A型インフルエンザに用いられてきたが、耐性化のためほとんど効果が無くなった。
現在ではパーキンソン病治療薬として用いられている。

抗ウイルス薬の考察

抗ウイルス薬ができたが、実際に効果があるのは3クラスと少ない。
服用して効果のある期間も極めて短く、投与の判断も難しい。
加えて、耐性ウイルスの問題もあり、今後は新薬に関しては通常使用に制限がかけられることも考えられる。

続きます