実習あれこれ 解剖編
歯牙解剖学
今回は解剖といっても、歯の形態の話。
歯牙解剖学という。
歯の形は一本一本千差万別、親知らずを含めた全32本の歯を、歯科医師は右上の5番というように全て鑑別できる。
歯医者になった今ではいとも容易いことだが、学生時代はなかなか苦労した。
数万人に1人といった、特殊な歯の形態まで覚えなくてはならないのだ、
歯は集めるところから始める
歯の収集
実習には膨大な数の歯が必要になる。
それは、大学OBの協力が不可欠。
開業している大学OBが抜いた歯をストックしておき、それを分担して学生たちが夏休みに集めて回る。
2年生の夏、歯の収集がおこなわれた。
近場に集めにいく学生は十数件、遠方だと1~2件と労力が偏らないようにして振り分けられた。
私は、当時400CCのバイクで旅してまわるのが好きだった。
夏休みは、大阪から北海道までバイクで2週間かけて自走するテント旅をした。
なので、回収係最遠方の、函館エリア。
本州からフェリーで上陸地点の函館、通りすがりに回収するのだ。
札幌から300キロほど、回収は2件であっという間に終わった記憶がある。
ところが、札幌に帰った私は、消毒薬の濃度を間違えて10倍で処理してしまい、大量の抜去歯からすさまじい泡が噴出した。
あわてて消毒薬を流し、水洗い後素知らぬ顔で提出した。
今となっては時効だが、大変焦った。
歯の選別
学部に集められた何万本では効かない歯は、学生たちの手で歯種ごとに選別される。
そして一人一揃いずつセットにして実習に用いるのだが、なかなかそろえるのは難しい。
親知らずなどは山ほどあるのだが、虫歯などに侵されていない第一大臼歯などは見つけるだけでも大変。
きれいな形の歯を選ばないと、後々実習でえらい苦労をする。
凄まじい歯の争奪戦が繰り広げられた。
解剖学のテスト
歯の形態を覚えるのは基本的なこと。
ではいったいどうやってテストするのか。
イラストなどではない、現物を使ってやるのだ。
教室に口の字型に机が並べられる。
椅子は人数分おかれ、学生が着席する。
そして、一人一人の前に歯牙が一個入った番号付きシャーレが置かれる。
テスト用紙は番号に該当する歯牙の名称を書くようになっている。
このシャーレを30秒ごとに隣に回していくというシステム。
一周したところでテストは終了。
恐怖の回転式テスト
ところが、わからないところを空欄にしていた学生に悲劇が起きた。
空欄を詰めて書いてしまい、その後は全ての解答欄がずれるという大惨事。
クラスのいたるところで阿鼻叫喚となった。
学生もいろいろ大変だったのだ
休みの日にでも続きます