耐性菌は気にしなくて良い?
先日のマイコプラズマ編の後、そんなに簡単に変異は起こらんだろ、と知り合いの歯科医に言われた。
実は変異は本当に簡単におこる。
というより、常に起きていて、普通なら自然に淘汰されているので、問題にならないのが耐性菌。
今回はマイコプラズマ番外編
マイコプラズマにおける耐性菌の発生メカニズム
耐性マイコプラズマ
マクロライド耐性のマイコプラズマとはどのようなものか。
マクロライドの作用機序は、細菌中の細胞小器官・リボソームに取り付いて、ペプチド移転を阻害することでタンパク質合成を止めてしまうというもの。
つまり、耐性を持つということは、マクロライドの取り付けないリボソームを持っているということ。
マイコプラズマのリボソームの数はおよそ300ほど。
このうち、生命維持に必要な変異リボソームを持つものが、耐性マイコプラズマということになる。
耐性リボソーム
リボソームは、雪だるまのように、大小2つのサブユニットが結合してできている。
そのサブユニットが、ヒトとは違うため、抗生物質は細菌にだけ特異的に効く。
その大きい方のサブユニットの23sリボソームRNAの、Vドメイン領域の、2063番目のアデニンがグアニンに変わるだけで、リボソームは耐性を持つ。
つまり、RNAの転写元であるDNA側の情報として、2063をコードするたった一つの塩基が、コピーエラーをおこすだけで、リボソームは耐性を持つのだ。
このような変異を点変異という。
他の細菌は、DNA上にリボソームの設計図を複数枚持ち、リボソームをつくっている。
1枚の設計図がエラーをおこしても耐性リボソームは、細胞内に十分には存在できず耐性は獲得できない。
残りの設計図により正常リボソームがつくられるため。
コピーエラーが同時におこる確率は極めて低い。
ところが他の細菌と異なり、マイコプラズマは遺伝情報が圧倒的にコンパクトにできている。
マイコプラズマはリボソームの設計図を1枚しかもたない。
1か所のコピーエラーは全てのリボソームを耐性化してしまう。
変異の確率
コピーエラーがおこる確率は、一塩基対あたり、一千万分の一から、一千億分の一。
しかし、細菌の分裂増殖スピードは凄まじい。
これは、マイコプラズマにとって、7日から10日に一個、耐性マイコプラズマが生まれる計算になる。
耐性化マイコプラズマが生き残る条件
耐性マイコプラズマは確率的に、マクロライドの有無にかかわらず今までも生まれていた。
ただ、正常マイコプラズマに比べ弱いため、競争に打ち勝てず淘汰されていただけの話。
しかし、マクロライドの存在下では状況は逆転する。
競争力の劣る耐性マイコプラズマのみが生き残ることができる。
これが、マイコプラズマの耐性化のメカニズム。
耐性化の真の意味は
耐性化というのは、元ある菌のバリエーションが変わるということ。
主流を占めていた薬剤に抵抗性を持たない株に代わって、環境変化に適応できる株に主役の座が移るだけの話。
その環境変化こそ、マクロライドなどの抗生物質の存在。
耐性株が発生したときにマクロライドがあれば、通常株が全滅し、耐性株のみ生き残る。
マイコプラズマのように7日から10日にひとつ耐性株が生まれる細菌に、抗生剤を服用すれば結構な確率で耐性株といきあたる。
耐性菌は他から蔓延してくるのではなく、抗生剤を服用した自分の体で発生するのだ。
そして、耐性化したマイコプラズマは周囲の子供にうつり、耐性マイコプラズマ症として問題をおこす。
ジスロマックは3日服用で7日効く。耐性株が発生する確率は7日~10日にひとつ
確かにマイコプラズマと違い、他の大きく複雑な細菌では耐性化の獲得は難しい。(それでもマクロライド耐性細菌は爆発的に増えている)
しかし、マイコプラズマが結構な病原体であることを考えると、マクロライドの安易な服用は大問題だ。
マクロライドを処方した医者、服用した患者はともに責任を自覚すべきだと思われる。
医院選択の基準に
このような確率的な耐性化菌の発生メカニズムは、本来医療人であれば知っていなければならないこと。
だから、大学病院などでは抗生物質の使用制限がきっちり定められている。
ところが、風邪でマクロライドの処方をする医者、歯周病治療にマクロライドを使う歯科医師が一定数存在する。
いったい何を勉強してきたのだと問い詰めたくなる。
とはいえ、嘆いてみてもらちが明かないのが現実。
患者においては、かかる医院の選択の基準にされると良いと思う。
マイコプラズマ編 完