耐性菌との戦い

2017年、ようやく小児へのマクロライド系以外の抗菌薬が、実用として認められた。
ニューキノロン系のトスフロキサシンである。
とはいえ、最少発育阻止濃度はマクロライド系よりも高く、局所でマイコプラズマの撃ちもらしが出る可能性は高い。
これが何を意味するか、遠からずおこるトスフロキサシン耐性のマイコプラズマの流行である。

マクロライド耐性菌の蔓延

マクロライド耐性のマイコプラズマが出現したのは、遠い昔の話ではない。
1955年にマクロライドの一種、エリスロマイシンが発売されてから45年間は耐性マイコプラズマの出現は確認されなかった。
2000年にアジスロマイシンが登場する、薬品名はジスロマック。
翌2001年、最初の耐性マイコプラズマが報告される。
その後は爆発的に増加し、耐性菌率は2012年には85%を超えている。

マクロライドの一種・アジスロマイシンのジスロマック
マクロライドのジスロマック

耐性菌の発生メカニズム

マイコプラズマのタンパク質合成の場、リボソームにマクロライドは作用して合成阻害をおこなうことで薬効をあらわす。
リボソームの構造は、マイコプラズマの持つ遺伝情報のごく一部が変化するだけで、耐性リボソームになってしまう。
極めて単純な構造の微生物ゆえに、リボソームの構造を決定するDNA領域が一領域に限定されているからである。
そのため、他の細菌と比べると圧倒的な速さで耐性菌が出現する。
そして、今までも一定の確率で、耐性マイコプラズマは発生していた。

ただし、耐性菌が出現しても、通常であれば他の正常なマイコプラズマとの生存競争に勝てず消滅していく。
ところが、マクロライドが存在していることで、正常なマイコプラズマは死滅し、耐性株のみが生き残る。
これが、世界中あちこちでごく普通に耐性マイコプラズマが発生している仕組みである。

耐性菌増加の背景

耐性菌増加の原因は、マクロライドの不適切な乱用にある。
抗菌スペクトルのべらぼうに広いマクロライドは、とりあえず出しとけば効くだろうという安易な感覚で、勉強不足の医師・歯科医師が処方するきらいがある。
薬価も非常に高いので、製薬会社のMR(医薬情報担当者)は利点ばかりを述べて、あの手この手で売り込んでくる。
それを鵜呑みにして、ただの風邪や歯ぐきの急性炎症でマクロライドを処方するようなとんでもないことになっているのが実情。

挙句の果てには、一部の愚かな歯科医師が、歯周内科などとうたって、マクロライドを処方する始末である。
他に治療法がないならともかく、基本歯周治療で対応できるものを、自費診療に誘導する手段として処方するのであるから始末に負えない。

医科でも、マクロライドの長期少量投与での免疫賦活作用を期待した、エビデンスの乏しい処方がされている。
長期少量などという使い方は、耐性菌を誘導する見本みたいなやり方であり、本来びまん性汎細気管支炎などそれ以外では治療法がない場合にのみ許される使用法である。

マイコプラズマにどう向き合うか

マクロライド耐性マイコプラズマは、比較的簡単に、発生しうる。
そしてそれが身近な小児に感染し、肺炎にまで至ると治療で大変な思いをすることになる。
いまは、ようやく代替薬のトスフロキサシンが開発されたが、それもいつまで耐性を持たないでいられるかわからない。
我々にできるのは、不要なマクロライドの服用を控えること。
そして安易にマクロライドの処方をおこなう医療機関は、受診を避けるべきである。

現在、マクロライド系・テトラサイクリン系・ニューキノロン系の処方は、大病院などでは使用制限をかけている。
いざというときに、使用する薬品がないことは、時として致命的になる。
大きな医療機関は、それにきちんと向き合っている。

ところが、多くの個人院などでは、それを理解できているところが少ない。
本来であれば、使用にあたり書面提出ぐらいのハードルがあって然るべきもの。
歯周内科などでの安易な使用で、まわりの人間を悲惨な目に会わせるようなことはあってはならない。
少なくとも、マクロライドの処方をおこなう医療人は、そのリスクをきちんと認識すべきであり、リスクを患者に説明すべきだ。

マイコプラズマ番外編・耐性菌の発生頻度に続きます