個人輸入する薬のリスク

個人輸入していた抗生物質

先日、口臭に悩む40代の女性が来院した。
特に強い口臭を感じないが、左上大臼歯部を清掃した時に、ドブのような臭いを感じたという。
そもそも彼女は、昨年、歯周基本治療の最中に治療中断していた。
自分が歯周病になって口臭がするのは耐えられない、と思った彼女は、なんとジスロマックを個人輸入して服用したのだ。

問題のジスロマック
ジスロマック

ジスロマックは、マクロライド系の抗生物質。
細胞内に入り込んだ細胞内寄生細菌すら、倒す。
バイオフィルム(細菌の作る菌体外多糖、歯垢など)さえも突破する強力な抗生物質。

良いことばかりではない、耐性菌誘導能が高いのである。
これでしか戦えない細菌がいるのに、耐性化されると手も足も出なくなる。
それゆえ、大きな医療機関などでは、使用制限がかけられているところもある。
これらについては、過去記事「間違いだらけの抗生剤えらび」に詳しい。

本来であれば、彼女は歯周基本治療をおこない、適切な処置をおこなえば十分に口臭と止め得ることができた。
しかし、彼女はネット上で歯周内科の都合の良い情報を得て、薬の個人輸入をおこなったのだ。
(歯周内科は、多分に問題視されている治療である。)

薬の個人輸入の実態

日本国内では、薬の個人輸入は、自身で使用する分には認められている。(麻薬系などを除く)
ただし、他人への譲渡や、転売は非合法。
そのため、ネット上では個人輸入代行という形で、販売に近い形をとっている。

販売サイトでは、抗生剤、バイアグラ、ハゲの治療薬、ホワイトニング剤、やせ薬、ホルモン剤(ステロイド)、果ては抗がん剤など、ありとあらゆる薬が購入できるようになっている。
厚生労働省が個人輸入を禁じている向精神薬剤も当たり前のようにある。

危険な疾病判断

むろん、正しく使えば有益な薬も多数ある。
ところが、一例をあげると、性病の治療サイトでは、クラミジアの治療薬としてアモキシシリンが販売されていた。
クラミジアにはペニシリン系のアモキシシリンは無効。
つまり、個人で治療したつもりでも、実際は治っておらず、病原体キャリアとして感染症をばらまくことになる。

あらゆる病気の治療では、診断を確定し、それに応じて適切な薬品を使用することが原則である。
このような個人輸入代行サイトでは、疾病の確定はおろか、副作用や、他の疾患や薬品との相互作用などの情報が全く不足しているといって良い。
このような個人判断での投薬は、自己責任とはいえ、非常に危険。
日本では健康保険があるため、個人輸入する場合より、医院にかかる方が安上がりな場合も多い。
気軽に購入できるため、買いたくなる気持ちは分からなくはないが、絶対にやめるべきである。

他人に迷惑がかかる場合も

マクロライドなどの抗生物質は正しく使用しなければ、耐性菌を誘導してしまう。
つまり、必要なときに効く薬が無くなってしまう。
現に、身近な例では、子供に耐性菌型のマイコプラズマ肺炎が巷に広がり、なかなか完治しない状況が生まれている。
自分のみならず、身近な他人にさえ影響を与えてしまう。

ネットで得られる情報は昔に比べ、格段に広がった。
とはいえ、それが必要な事象を全て網羅しているかというと、そうではない。
医師や薬剤師ができるまで6年もかかる。
薬を扱うというのは、それほど膨大な知識が必要なのだ。

薬の個人輸入について・完