歯科治療と放射線
体に影響を与える放射線量
前回解説した、放射線量の指標、シーベルト。
では人間はどの程度放射線を浴びると、影響があるのだろうか。
発がん以外で、体に直接影響が出てくるのは、1000ミリシーベルトぐらいから。
ガン治療に用いられる放射線量は、それよりもはるかに大きい。
ガン細胞は放射線を浴びても治癒能力に乏しいが、正常細胞であればそれだけの線量を与えても修復される。
ガンの発生率は、研究では1000ミリシーベルトの被ばくを受けた場合、生涯で5パーセント。
確定的ではないが、ガンのリスクが上昇する線量はだいたい100ミリシーベルトから。
それ以下であれば、ガンの過剰発生はみられない。
これは、原爆や原発事故などの追跡調査から、対照群と比較した疫学調査に基づいている。
実際的には、放射線量は100ミリシーベルト以下であれば問題ないといえる。
が、現状では過剰なまでの安全マージンがとられている。
国際放射線防護委員会の線量限度の勧告値は、一般人が毎年1ミリシーベルト、放射線従事者で5年平均で単年当たり20ミリシーベルトとなっている。
これには自然放射能を含まない。
身近な放射線
実は放射線は非常に身近な存在。
ありとあらゆるところで、我々は放射線を浴びまくっている。
電子レンジや蛍光灯などからも放射線は発生するし、空気中のラドンなどからでも被ばくがある。
何より、宇宙からも大量に放射線は降ってくる。
地球には磁気があるため、大量に浴びることはないが、それでも飛行機で成層圏近くの1万メートルの高さまであがると、通常の10倍の放射線を浴びる。
発生源である、太陽などの恒星は、核融合により光り輝いているため巨大な核施設といえるためである。
地殻からも放射線は発生する。
金剛生駒山脈を構成する、深成岩である花崗岩からは他地域よりも多くの放射線が発生するし、温泉地帯などではなおさら。
それどころか、放射線をより発生するラドン泉をありがたがる始末である。
歯科におけるレントゲン撮影
一般の歯科医院で受ける放射線には、レントゲン写真がある。
一般的な歯医者では、大き目のパノラマ、小さめのデンタル、断層撮影のCTだろう。
それによる被ばくは、
パノラマで0.02ミリシーベルト、
デンタルで0.002ミリシーベルト、
CTで0.1ミリシーベルトでしかない。
当院のようにデジタルレントゲンであれば、通常のフィルム式に比べ約10分の1の被ばく量になる。
当院のデジタルレントゲン装置
これらの値は、飛行機に一回乗って浴びる放射線より低い。
有馬温泉でしばらくぼやぼやくつろいでいるのと大して変わらないのである。
まとめ
歯医者のみならず、医療機関で受けるレントゲン撮影での放射線量は、人体に与える影響は皆無といってよいレベルである。
上限が定められているが、実際には胸部レントゲン写真を同時に1000枚とっても放射線被ばくによるガンの発生はない。
それよりも、レントゲンで診断できる利益は、計り知れないものがある。
過剰に放射能を恐れる人もいるが、正しい知識を持って医療の恩恵を受けるべきだ。
少なくとも、医師・歯科医師・放射線技師は専門的な科学に基づく教育を受けている。
素人が流すジャンクサイエンスに惑わされずに、安心して治療を受けていただきたい。
放射線 完