中心位の狂いが様々な症状を引き起こす。
しかしながら、これは歯牙を大量に喪失したときのみに起こるわけではない。

矯正をおこなった患者でおこることはのべたが、実は何も歯を触っていない若い患者にこの症状がみられることがある。
これは幼児期に乳臼歯の早期喪失が片側で起こった場合。
顎位が変化してしまい、ずれたまま永久歯列が萌出し、咬頭篏合位を形成してしまうとこのようなことがおこる。

このような場合の治療はやっかいだ。
すでに臼歯部に多くの補綴がおこなわれている場合は、咬合に参加している歯をすべて再補綴する。
顎位を正しい位置に戻すのはTEK(テンポラリークラウン・仮歯)
TEKで顎位を再建し、順次最終補綴物に置き換えていく。
いわゆる全顎治療になるが、使用する冶具やTEKが保険項目になく、さらに莫大な時間と手間がかかるため保険外治療となる。

歯に補綴がおこなわれていない場合はどうするか。
この治療は私のオリジナル。
偏位した側の臼歯部咬合面に着脱式のミニスプリントをつけれるようにする。
通常、即時重合レジンで模型上で作成し、パチンとはまる。
食事の時ははずさなくてはならないが、それ以外の時には下顎頭はつきあがることなく保たれる。
睡眠時には、誤嚥を防ぐためミニスプリントは使えない。
そのため必要に応じて、睡眠時用の大き目のスプリントを作成する。
保険のペラペラのものでなく、咬合補正をおこなえるハードタイプ。
いずれも保険適用外。

乳歯と永久歯の混合歯列期では正常位に戻すことができる場合がある。
問題のある歯列弓側の全ての臼歯部の咬合が失われていたらお手上げだが、少しでも残っていたらそこをかさ上げする。
この場合は、歯牙充填用のレジンを直接咬合面にダイレクトボンディングする。
乳歯冠が入っている場合は、メタルプライマーを使って。
そして他の永久歯、特に6番・第一大臼歯がその位置まで萌出するのを待つ。
この高さで永久歯に咬頭篏合位が形成できれば勝ち。
保険項目にないが、子供に罪はないと思い、完全に赤字だが保険で治療している。
今は保険で治療してあげているが、今後件数が多くなれば考え直さざるを得ないだろう。

問題は、子供の乳歯列を崩壊させるような意識の低い家庭であること、デンタルIQの低さの問題。
せっかく正常にしても、永久歯列を虫歯にして再び咬合崩壊をおこしてしまうことがある。
また治してもらえばよいや、ぐらいに考えているのか、定期健診にもこない。
苦労して治したのにこれでは、まったくむなしく感じる。

続きます