今まで各薬剤の特徴を書いてきた。
では結局、どのような処方が望ましいか。
まとめると、病棟のような重症ではない、一般の患者の治療は起因菌が限られる。
そのため、抗菌スペクトルのやたら広い抗菌薬でなくても十分治療可能。
基本的にペニシリン系薬剤をファーストチョイスとする。
ペニシリンを第一選択薬とするのは、厚生労働省やアメリカ歯周病学会などの権威あるガイドラインでもかわらない。
それで効果がなければ、リンコマイシンでPrevotella属をたたく。
もしそれでも効果がなければ、はじめて他の抗菌剤を使えばよい。
口腔内感染症の起因菌をある程度絞り込み、それを狙ってたたく。
広域スペクトルで効けば良い、というのは大きな視点で見ると、やってはならない。
生きるか死ぬかではないのが通常の歯科の感染症、下手に大事な切り札を使って本当に必要な時に効かなかったら本末転倒というもの。
しかし、この基本から外れる場合も当然ある。
授乳中であれば、乳汁移行しない第三世代セフェムのセフゾンも適用であるし、腎臓疾患があればマクロライドも考慮の対象になる。
抗菌薬の選択は、ロールプレイングゲームのようなもの。
当たればよいではなく、様々な条件の制約のもとどうやったら当たるかを考える。
これまで長きにわたって、抗菌薬のことをかいてきた。
抗菌薬は、感染症の治療に欠かせないもの。
そして、耐性菌が出現している現在、その資源には限りがあるということ。
だから、抗菌薬の適正使用にはエビデンス(根拠)に基づいたルールがある。
できるだけ狙いの細菌だけを殺し、なおかつ他の疾患や薬剤の相互作用を考慮する投薬であるということ。
特に歯医者は、今だけ、口腔内だけしか考えない処方に大きく偏っており、誤用としかいえない使い方になっているのは嘆かわしい限りである。
保険点数で定められた薬価というシステム上、より高額の薬品を売り込みたいMR(医薬情報担当者)がすすめるがままに処方するのも問題だ。
挙句の果てには、歯科雑誌の巨頭、デンタルダイヤモンド社から出版されている、「歯科におけるくすりのつかいかた」などは、MRが書いたのではなかろうかというような内容。
このように、ドクターが自分の頭で考えず、間違った情報をうのみにして抗菌薬の乱用をしているのが日本の医学の現状である。
抗菌薬は、人類全体の宝物だ。
これから先長きにわたって、その恩恵を享受できるよう、正しい抗菌薬の使い方がなされることを願ってやまない。
抗菌薬の選択・完