鎮痛剤とは

鎮痛剤とは、痛みを鎮める作用を持つ薬物の総称。
対して、麻酔は感覚自体を消失させる。
共に歯医者にはなくてはならない薬物だ。

以前書いた、感染症との戦いの歴史が、16世紀以降と比較的新しいのに対し、痛みとの戦いははるか古代にさかのぼる。
4000年前近くのエジプトですでに、麻薬系の鎮痛薬が使われていたのだ。
時代の新旧、洋の東西を問わず、痛みは耐えがたいものである。
病気の実態が解明されてなかった時代、痛みをとることは、治癒そのものであった。

鎮痛薬は時代とともに、より効果的に、より安全に進化してきた。
我々が普段何気なく服用できるのは、その進化のおかげといって良い。
まずは簡単に、鎮痛薬の歴史からひも解いていく。
現代の鎮痛薬が、いかに安全であるかを離解する一助となるはずだ。

鎮痛薬の歴史

医学の歴史上に登場する鎮痛剤は、いくつかの種類に分類される。
自然の物質を原料としたもの、化学薬品によるもの、鎮痛剤ではないが、鍼灸や電気、氷による冷却など、ありとあらゆるものが利用された。
これらは時代の背景とともに、変遷していく。

古代~17世紀ごろ

病気が何たるかわかっていなかった時代、痛みを緩和するためにありとあらゆる方法が試された。
呪術や祈祷の類も、当時としては医療の範疇でもあったのである。

証拠が残っている鎮痛の痕跡で最も古いものは、鍼(はり)治療とされている。
痛みを鈍くするツボとして、現在でもおこなわれていいる。

強力な鎮痛剤だったアヘン

はっきりとした鎮痛効果として、エビデンス(根拠)のある鎮痛薬は、麻薬であった。
最も古いものは、アヘン。
なんと、時代は5000年前までさかのぼる。
その後も鎮痛剤として広く長く使用された。
ケシから抽出されるモルヒネはいまだに末期ガンなどの患者に、強力な鎮痛剤として用いられている。
麻薬は、快楽を得るものというより、医薬として使われてきたのだ。

アルカロイド類

植物や菌類には、幻覚作用や向精神作用のあるアルカロイドを含むものがある。
ナス科のチョウセンアサガオや、マンドレイク、ヒヨスなどが代表的。
それらのアルカロイドを利用した鎮痛剤も古くから用いられた。
現代でも使用されるアトロピンやスコポラミンはこの類のもの。
ただし毒性が非常に高く、治療による死亡例も多かったらしい。

主役の祖

鎮痛剤として有名なアスピリン。
この薬効は実は紀元前400年ごろにはすでに用いられていた。
柳の樹皮には、かの有名なヒポクラテスが解熱・鎮痛に用いていたのだ。

柳の樹皮には消炎鎮痛作用のあるサリチル酸が含まれている。
この薬効を用いて治療がおこなわれていた。

ちなみに、古代中国で柳を削って歯痛に用いたのが爪楊枝の原型。
歯間ブラシの祖でもある。

柳こそは鎮痛剤の祖
柳とアスピリン

電気治療

何と古代ローマでは、疼痛緩和に電気が用いられていた。
電源は、発電魚であるシビレエイ。
シビレウナギは800ボルトもの高電圧で危険極まりないが、シビレエイは70~80ボルトぐらいのものが多い。
これを痛みのある部位にあてていたという。

続きます