インプラント義歯は安全か

下顎の入れ歯の安定の悪さは前回解説した。
確かに入れ歯が動かなければ、咬合能力は飛躍的に向上する。
そこで出てきたのが、インプラント固定式入れ歯。

インプラント固定式入れ歯を扱う医院のホームページでは、何でもかめると非常に良いことばかりが書いてある。
本当にそんな良いことづくめなのだろうか?
とんでもない、これは健康の前借りと同じ、後でひどい目に合うケースが後を絶たない。
今回は、その真のデメリットを書いていく。

インプラント固定義歯の弱点

インプラント固定式入れ歯は、インプラントに固定を依存する。
そのため、インプラントのデメリットが入れ歯の弱点そのものといってよい。

インプラント周囲炎

インプラントは、天然の歯と違い、感染に対して脆弱。
骨とはくっつくが、歯ぐきとはくっつかないため、細菌に対する防御力が大きく劣るためである。(詳しくはインプラントの弱点参照)

そのため、お手入れが不十分になるとインプラント周囲炎をおこす。
そうなると、腫れが入れ歯を押し上げてしまい、痛いわ入れ歯は合わないわで使い物にならなくなる。
しかし、これは適切な清掃や調整で解消できる可能性があるため、まだ救いがある。

問題がおきるとき

歯医者の手を離れた時が、本当の問題の始まり。
高齢になればなるほど、基礎疾患の悪化や、脳や心臓の血管障害などで入院や介護が必要な場面が多くなる。
痴呆になる人だって出てくるだろう。
その時に、どれだけ十分にお手入れできるか。

十分にお手入れできなければ、即インプラント周囲炎をおこしてしまい、入れ歯は使い物にならなくなる。
それだけならよいが、健康上の問題でインプラントを撤去できなくなっていれば悲惨そのもの。
行きつく先は、骨髄炎。
強い炎症や痛みが起こるたびに、ただただ抗生剤と鎮痛剤でごまかすほかはない。
入れ歯を使うなどとは程遠い状況になる。
終末医療の現場では、非常に問題になっていることである。

この状況にいたれば、インプラント固定式入れ歯を入れた歯医者にかかることはできない場合がほとんど。
インプラントを打った医院としては、自然に厄介払いできることとなる。
往診の歯医者だって、他院の打ったインプラントはトラブルを避けるため極力手を付けない。
訴訟沙汰も怖いし、何より他院のもうけ話の尻拭いなどしたいはずもない。
このように、悲惨なインプラント難民が生まれてしまう。

本当に大変になるのは、歯を失った時ではない。
インプラントが維持できなくなった時。

下の症例は、インプラント固定式入れ歯のなれの果て。詳しくはこちら

当院に来院されたインプラント固定式入れ歯の患者のレントゲン
インプラント固定式入れ歯

インプラントは周囲炎をおこし、前癌病変にまでいたっていた
前癌病変

なぜ、インプラントをすすめるのか

実は、歯科医院は保険だけでは成り立たないところまで、診療報酬を抑えられている。
特に入れ歯はやればやるほど赤字の、不採算部門の代表選手。
それゆえ、できるだけ入れ歯をやらないようにして、利益の極めて大きいインプラントに誘導しようとする歯医者が乱立している。

そのような歯医者にとって、本当はインプラントを歯の本数分入れたいが、コスト的に高額。
インプラントを打たせてくれる患者はそうは多くはない。
そこで入れ歯を組み合わせて、価格を抑え、中間層を取り込みたいというのが狙い。

そのため、インプラントのデメリットを極力隠して、インプラント治療に誘導しようとする歯医者が多くみられる。
しかし、将来起こりうる最悪の状況を無視して、健康であることを前提に治療をおこなうことはいかがなものか。

インプラントはサーキットしか走れないレーシングカーのようなもの。
高度なメカニックがいて、良い道路状況でしか走れない。
私は、歯科治療は悪路にも強いジープのような存在であるべきだと考えている。
何があっても、介護の現場のような、限られた条件の下でもある程度のパフォーマンスを発揮できるべき。
このようなフィロソフィーから、インプラントをやめてしまった。

なにかまずい状況になったらどうするか。
それをよく考えたうえで、義歯治療を選択していただきたいと思う。