AIデンチャーとは

入れ歯は通常、金属性のバネ(クラスプ)が残存歯にかかる。
そのため、場所によっては、入れ歯を入れていることがまるわかりとなる。

そのため、入れ歯のバネを目立たないものにする工夫が考えられた。
バネを歯ぐきと同じ色の樹脂製にしたものも、その一つ。
ノンクラスプデンチャーという。
AIデンチャーは、ノンクラスプデンチャーの一種。

従来型ノンクラスプデンチャー

バネが見えないというメリットのある入れ歯であるが、ほとんどのものは、実用に耐えうるとは到底言えない代物。
樹脂の強度や物性が悪く、すぐに劣化や破折、変形してしまって使い物にならなくなる。
まともに満足のいく使用感は、1年もあれば上等な部類。
おまけに修理などはできないものがほとんどで、できるものでも修理したとはいい難いもの。
もちろん歯ぐきがやせても、裏の張替え(リベース・裏層)はできない。
開発されてから、50年以上の年月がたつが、普及しない理由はここにある。
私も当初は、扱う気など毛頭なかった。

他院製作の従来型のノンクラスプ。劣化して破断している
他院のノンクラスプ

AIデンチャーとの出会い

私がAIデンチャーに出会ったのは、ほんの偶然からはじまる。
以前分院長を務めていた医療法人にいたころ、患者が人生最後の同窓会にノンクラスプデンチャーを所望したのだ。
患者の兄が歯医者だったのだが、亡くなったため私のところに来た患者だった。
それゆえ、ノンクラスプデンチャーのことを知っていたのだ。

新材料の義歯

仕方なく、色々な資料をあたることにした。歯科医療雑誌のバックナンバーをあさっていると、新型のノンクラスプデンチャーの記事があった。
従来型のノンクラスプデンチャーは、ぐにゃぐにゃか、硬めでも強度が不足して、入れ歯の原則からおよそかけ離れた設計になる。
そのため、入れ歯を専門とする歯科医は敬遠するきらいがある。
ところが、雑誌に載っていた入れ歯は、公立の九州歯科大学の補綴学の助教授が、補綴学の基本にのっとり、きちんとした理論のもと設計し臨床に応用していた。
これであれば、入れ歯の原則から外れずに設計が可能。

また、並行して検索を繰り返していると、もうひとつこれはという入れ歯が見つかった。
従来型の十数倍の強度を持つ劣化しない樹脂で、ノンクラスプどころか通常の入れ歯の樹脂を軽くしのぐ物性がある。
その樹脂を用いることにより、今までにない審美性と強靭性、機能性を引き出すことができるという。

ゆくゆく調べていくと、この二つの入れ歯は同じものであることがわかった。

このデンチャー(義歯)を扱っているのは、Kデンタルという九州の技工所。
後に知ったが、ここは日本最大の技工所から見学に来るほどの技術を持ったラボ。
世界最高クラスの技術を持つ。

大分にほど近い長閑な田舎駅。昔のKデンタルはこんな田舎にあった
Kデンタル

歯科医へのテスト

詳しく詳細を知るため、私は九州に向かった。
ところが最初に待っていたのは、技工所による私への質問。
私の理論や、治療法、印象に至るまで詳細に聞かれた。

実は、この技工所、並みのドクターの仕事は受けない。
技術的に取引する資格があるか、試していたのだ。
私は北大を出た後、家の事情で帰阪し、2年ほど補綴の名医のもとで修業した。
教えていただく身、給料は衛生士より安く、苦労した。
それゆえ、そこいらにいる町医者とは一線を画す技量があると自負しているし、そうも言われてきた。

長い時間にわたる試問が終わった後、ようやく、それでは取引しましょう、ということになった。
ラボの見学と、AIデンチャーを作成のための理論や技法を教わった。
確かにこれは、並々ならぬノンクラスプデンチャーとなりうると思ったことを覚えている。

続きます