ぜんそく患者への対応

ぜんそくの治療

ぜんそくの治療は、大まかに二つの系統の投薬が柱となる。
発作が起きたとき、それを一時的に寛解させる薬と、長期的に発作が起こりにくくするよう炎症自体を鎮める薬を併用する。
前者はリリーバーと呼ばれる発作治療薬で、後者はコントローラーと呼ばれる長期管理薬。
両者とも炎症を抑えるステロイド薬と、気管支拡張作用のあるβ2刺激薬が中心となり、程度に応じて薬の強度が選択される。

とくに近年、吸入ステロイド薬が劇的に進化しており、安全に効果の高い治療成績が得られるようになってきている。

ぜんそくの吸入薬、吸引回数がわかるよう数値の入ったダイヤルが設けられている
シムビコート

歯科におけるぜんそく患者への対応

アスピリン喘息

歯科の世界で日常的に注意を要するのは、何のことはなさそうな鎮痛剤。
ぜんそく患者の一部は、アスピリン系の鎮痛剤に対して、感受性を持ってしまう。
服用して数分から1時間以内に、非アレルギー性のぜんそく発作が起こる。

同じシクロオキシゲナーゼ阻害系統の、酸性Nsaidはぜんそく誘発能を有するため投与禁忌。
商品名として、ボルタレンやロキソニンなど医科歯科で最もよく処方される鎮痛薬である。
アセトアミノフェンは比較的安全とされているが、やはり誘発が報告されているため、添付文書では禁忌とされている。
安全とされるのは、塩基性Nsaidのエモルファゾン(商品名:ペントイル)などがあるが、鎮痛効果が弱いのが悩みどころ。

歯科では当たり前の酸性Nsaid、ぜんそくの禁忌薬である
解熱鎮痛剤

処方としては、過去にNsaidやアセトアミノフェンの処方歴があり、かつ発作がなければ、慎重に減量投与して様子を見ることが多い。

文書上は禁忌だが、比較的安全なアセトアミノフェン
アセトアミノフェンのカロナール

局所麻酔薬

局所麻酔売薬で問題になるのは、通常の麻酔薬に含まれるアドレナリン。
血管収縮作用のあるアドレナリンは、β2刺激薬を服用している患者に動悸や不整脈を誘発する可能性がある。
そのため、当院ではアドレナリンフリーの麻酔薬を使用している。
ただし、麻酔薬としての効果は弱め。

また、麻酔薬によっては含まれる防腐剤・パラベンや、安定剤・ピロ亜硫酸ナトリウムはぜんそく発作を誘発する可能性がある。
これらの含有されていない麻酔薬を用いるのが望ましい。

当院で使用しているアドレナリンフリーの局所麻酔薬
メピバカインカートリッジ

術中発作

ぜんそくの発作が頻発しているときは、治療自体をおこなうことは推奨できない。
しかしやむを得ない場合は、酸素や発作に対応した吸入薬を用意したうえでおこなうべきである。
もし、通常の診療で発作が起きたなら、姿勢を座位に戻し呼吸しやすくしたうえで、発作治療薬を吸引させ、状況により酸素の投与をおこなう。

麻酔科医の話であるが、全身麻酔中のぜんそく発作は非常に厄介らしい。
呼吸がコントロールできないため、いったん心臓を止めて再甦生させる方が楽だとのこと。
ずいぶん荒っぽいことをするな、と思ったものだが、ぜんそくはもともと命にかかわる疾患なのだ。

まとめ

ぜんそくは身近ながら、一歩間違えば生命にかかわる疾患。
鎮痛剤など、普通にある薬が猛毒となってしまう場合がある。
問診票など、歯科とは関係ないと思って適当に記載することは、重大な事故につながりかねない。
ぜんそくをお持ちの方は、しっかりと主治医に伝えるようにしてほしい。

ぜんそく 完