出血対策

出欠傾向のある患者の抜歯は、専用の対応が不可欠だ。
それゆえ、一般診療所では対応できずに、大学病院などに送ることも多い。
しかし当院では、可能な限り抜歯できる態勢を整えている。
今回は、私の医院での対応を書いていく。

抜歯の適応・準備

先天性疾患・全身性疾患など

高次医療機関での抜歯が求められるため、当院では抜歯できない。
血小板製剤などの用意がある医療機関でなければ、不測の事態に対応できないためである。

薬剤系

基本的に対応可能だが、人工透析患者の抜歯は透析医療機関との対診が不可欠。
透析により抗生物質が体内から取り除かれてしまうのと、ヘパリンによる止血困難があるためである。

ワーファリンや抗血小板薬の服用は、以前は薬剤の一定期間の休薬をしてから抜歯していた。
特に抗血小板薬は、血小板の寿命が平均8日であるため、3日も休薬すれば相当効果がある。
しかし、休薬はリスクを伴うため、私の止血方法や止血剤の向上により、現在では休薬することなく抜歯している。

止血方法

止血の原則は、歯科にかかわらず圧迫にある。
しかし圧迫によっても十分に効果が得られない場合には、止血剤等の使用が必要となる。

スポンゼル

多孔質ゼラチン製剤。
廉価であり、比較的効果も高いことから最も使用頻度が高い。
抜歯窩に挿入して、縫合する。

廉価で使い勝手の良いスポンゼル
スポンゼル

アビテン

細線維コラーゲン。
即時的に高い止血能を持つが、高価なため用いることは少ない。
出血点にアビテンを少量挿入し、スポンゼルを残りの大部分の抜歯窩空間に挿入、縫合する。

高価だが、抜群の止血能力を持つアビテン
アビテン

ヘムコン・デンタルドレッシング

キトサン製剤。
マイナスに帯電した赤血球や血小板を引き付ける。
自衛隊などで用いる、銃創などに用いる製剤の歯科用バージョン。
高価である。
止血後48時間以内に取り除く必要があるため、使い勝手は良くない。

高い割にはいまいちな印象のデンタルドレッシング
ヘムコンデンタルドレッシング

止血シーネ

止血のための最終兵器。
抜歯窩を覆う樹脂製のカバーで、即時レジンで作成する。
抜歯窩を縫合するための皮弁がない時には非常に重宝。
私以外の歯科医でシーネを使う人はあまり見たことがない。

抜歯後、出血のため口腔外で即時作成したシーネ
止血シーネ

高い出血傾向がある場合は、あらかじめ印象し、口腔外で作成しておく。
抜歯後止血困難に陥った場合は、出血中でも印象し、迅速硬化する石膏・キサンタノを流してつくった模型上で、その場で作成する。
シーネの装着前に、抜歯窩にスポンゼルやアビテンを挿入し、シーネで押さえ込む。
ここまでやって止血しなかった例は、私にはない。

まとめ

以上、私がおこなっている出血への対処をあげた。
個人院でここまでやっているところは、ほとんどないと思う。
全身的なリスクとなる休薬をおこなうことなく、抜歯できるメリットは大きいと考えている。
何かと不安のある抜歯だが、知識と準備があれば、怖くはない。

出血 完