出血傾向

出血したさい、前回解説した止血メカニズムのいずれかに問題があると、止血がままならず大出血につながることがある。
このように、血が止まりにくかったり、わずかな傷でも出血しやすい状態を出血傾向という。
今回は原因別に出血傾向を解説する。

血小板の働きや数が原因となる場合

血小板は、骨髄の巨核球がちぎれてつくられるため、核を持たない。
血小板の寿命は、約8日で、脾臓で破壊される。
この血小板自体の障害にはいくつか種類がある。

血小板の産生低下

骨髄の機能の低下によるもの。
癌や白血病などで骨髄が占拠されてしまったり、放射線やEBウイルス感染などで骨髄機能が低下した場合にみられる。

血小板破壊

自己免疫疾患で、自己の血小板やが標的になると、血小板の破壊が脾臓などで亢進される。
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)や全身性エリテマトーデスがこれにあたる。
また、肝硬変などで脾臓への血流が増加し、脾腫という状態となると、脾臓機能亢進のため血小板の破壊が過剰におこり出血傾向をきたす。

血小板無力症

遺伝病。
先天的に、血小板の、出血した際の血管の膠原繊維への凝集能が失われているためにおこる。

血小板の大量消費

播種性血管内凝固症候群(DIC)は血小板が大量消費された結果、止血に必要な血小板が不足し、大量出血につながる疾患。
敗血症や癌・白血病などで血液中で凝固活性化がおこり、体中のいたるところで凝固がおこり、結果血小板を使い果たした状態。
非常に重篤で危険な状態。

凝固因子に問題がある場合

代表的なものとして、血友病。
遺伝病である。
二次止血の、血液凝固カスケードという連鎖反応のどこかに問題がある場合におこる。
5000人から10000人に1人の割合で、遺伝子がX染色体上にある伴性劣性遺伝のため、ほとんどが男。

かつてイギリス王室のビクトリア女王の末裔に、遺伝子異常がみられた。
子孫である最後のロシア皇太子が血友病のため、怪僧ラスプーチンが祈祷にあたり、ロシア革命へとつながっていく。
要職の人物の病気で時代の運命が変わったことは多々あるが、これは遺伝子疾患が国の運命を左右してしまったレアケース。

血管に問題がある場合

血管がもろくなっておこる場合。
いわゆる老人性紫斑は、この代表格。
他にも遺伝性の血管奇形であるオスラー病もこれにあたる。

薬剤

歯科でもっとも遭遇することが多い出血傾向。
お薬手帳をチェックする意味はここにある。

ワーファリン

二次止血系の阻害薬。
循環器や脳血管障害の患者に常時投与されている場合が多い。

抗血小板薬

血小板の凝集阻害薬、一時止血系に作用する。
バイアスピリンが代表薬で、循環器や脳血管障害の患者に常時投与されている場合が多い。
最も多く使われている、「血をさらさらにするお薬」である。

ヘパリン

ヒルの唾液中にあるヒルジンの類似物質。
ヒルが肩こりに効くのは、この作用のためといわれる。
人工透析中の患者に多く用いられる。

出血傾向を事前に把握することは、歯科のみならず医療系にとって必須
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