細菌学と治療法の発達

パスツール、コッホにより開かれた細菌学により、人類はようやく感染症に対峙することができるようになった。
目的とする微生物を直に手にすることで、その動態をつぶさに観察できるようになったからである。

ワクチンの進化

まず人類が手にしていた、微生物の戦いの手段は、ジェンナーの生み出したワクチン療法であった。
多分に経験的な経緯で生まれた治療法であったが、パスツールはこれを進化させた。
天然痘と牛痘という、天然痘には亜種ともいえる弱い病原性株があったから成立した治療法である。

老齢のパスツールであったが、研究への情熱は冷めることはなかった。
彼は鶏コレラの研究から、弱毒化ワクチンの開発に成功する。
亜種がないなら、目的とする病原体から病原性を取り去れば良いという発想である。

この考え方で、当時顕微鏡では観察することができない狂犬病のワクチンを作り出す。
狂犬病は体内にウイルスが侵入してから、死に至るまで時間がかかる。
それゆえ、狂犬に咬まれた後からでも、ワクチンの接種が有効であった。

コッホのように純粋培養にこだわらず、病原体の存在を仮定したうえで、ワクチンを生み出した。
実に臨床型の細菌学者である。(パスツールは医師ではない)

パスツールにより編み出された弱毒化ワクチンは、今なお多くのワクチンに用いられている。
ポリオや麻疹、風疹、BCGなどは、生ワクチンと呼ばれる弱毒化ワクチンである。

血清の発見

コッホのもとには、多くの医学者が研究に訪れるようになった。
その中にドイツの医学者、エミール・ベーリングと、北里柴三郎がいた。

そのころ、感染症の微生物による病原性は、細菌が産み出す毒素によるものらしいということがわかってきた。
ジフテリアの研究にとりかかったベーリングは、破傷風の研究をおこなっていた北里柴三郎と、病原の毒素と、毒素に対する血清を作り出す。

そもそもワクチンは、病原菌に対する抗体を体がつくれるように、抗原を打つものである。
その病原菌に対抗する成分、抗体が入っている血漿こそが血清。
いわば、生体による血液製剤が血清なのである。

試験管に血液を入れておくと、血餅と血清に分離する
血清と血餅

北里柴三郎もノーベル賞の候補に挙げられたが、同時受賞のなかった時代、ジフテリアの他の論文も評価されていたベーリングが医学賞を受賞した。

続きます