日本の根管治療の問題点

日本でおこなわれている根管治療の成功のスコアは、他の国と比べると半分以下だといわれている。
なぜ、このような開きがでているのか、みていく。

日本の保険医療

日本の根管治療の問題点は、健康保険制度そのものにある。
つまり、不当以上に報酬が安すぎるのだ。

保険点数

点数表というものがある。
日本の健康保険制度では、治療による値段が国により決まっている。
その値段表こそが、点数表。
どんなに難しい症例でも、簡単な症例でも、研修医でも、教授が治療しても、銀座で治療しても、同じ治療であれば値段は同じ。
上手い下手も問われない。
新米が田舎で手抜きをするのが、一番もうかる。

保険点数の1点は、10円。
例えば100点の治療は、歯科医師に1000円の報酬が支払われ、患者の負担は3割負担なら、300円。

根管治療の保険点数

さて、根管治療の保険点数をみていこう。
以下に点数表の根管治療項目をあげる。

根管治療の保険点数
根管治療の保険点数表

例えば、上顎の大臼歯が神経をとらなければならなくなったとする。
それにかかる手技は、麻酔込みで558点。

いい値段のように思うだろうか。
考えてみてほしい、歯科医院には何人ものスタッフが働き、タービンなどの機械が動き、それを駆動するコンプレッサーも動いている。
テナント料も必要であるし、ファイルなどの治療器具は耐久性が悪く、消耗品だ。
滅菌のコストだって高額である。

ましてや抜髄には時間がかかる。
普通の歯科医院であれば最低20分、平均で30分のアポイント。
仮にドクターひとり、30分のアポイントとして、歯科医院で5580円と、再診料などを入れてもそれ以上は入らない。
この中で人件費、光熱費、テナント料、器具機械代をすべて賄わなくてはならないのだ。

しかも、根管治療はこれで終わりではない。
根管の消毒、貼薬の費用は大臼歯で46点、前歯に至っては28点だ。
再診料42点とあわせても、歯科医院には600円から800円ちょっとしか入ってこない。

本来なら、ラバーダムという唾液などが侵入しないよう、治療領域などを守る処置をとるのが根管治療のあるべき姿。
ところが、それに対する費用すら保険から消えてしまった。
これにより、日本の根管治療からラバーダムはほぼ絶滅したといってよい。
当院でも、免疫抑制剤使用などの感染にデリケートな患者の、自費治療のみにしかおこなわない。

大赤字の根管治療

つまり、保険制度の根管治療は大赤字。
やればやるほど、損をする

それゆえ、いかに短時間で流すか、ということに歯科医療界全体で努力が傾けられる結果となってしまった。

普通の歯科医は、もうからない部門ゆえに、根管治療の正しいやり方を勉強しないし、適当に流す。
勉強して理想を追求すれば、大赤字になるため。
それゆえ、今まで書いてきたような治療の根拠など知りもしないドクターが多い。

私の同期が勤めた歯科医院などでは、貼薬は最大3回、4回目には排膿があっても必ず根管充填するという鉄の掟があった。
赤字の根管治療をしてやるだけでもありがたいと思え、というスタンスだったらしい。
さすがにここまで極端なのは少ないにしても、できるだけやりたくないのがほとんどの歯科医のホンネだろう。

歯科医師の善意に頼っている医療は問題がある、というレベルの話ではないと思う。

なぜ私が根管治療を勉強したのか。
たまたま入った医局が根管治療の部門であったから。
医局は大変お世話になった教授がボスだったので、その医局以外の選択肢がなかったから。
学生時代は、根管治療みたいな面倒くさいもの誰がするか、など思っていたから皮肉なものである。
私が根管治療を頑張るのは、意地以外の何ものでもない。
当院で治療された方はわかると思うが、私は半年だって根管治療を続ける。

根管治療のあるべき値段

では、根管治療のあるべき値段とはいくらぐらいなのであろうか。
参考までに、諸外国の治療費をあげていく。

アメリカ  18万
カナダ   11万
イギリス  10万
フィリピン  8万
シンガポール 8万

日本     1万くらい

さらにこれにクラウンなどのかぶせ物の費用がかかる。(もちろん高額)

先進国並みにとは言わないが、せめて赤字にならない程度の治療費は対価として正当だと思う。
現在のような水準で推移が続く限り、日本の根管治療の予後は悪いままだろう。

個人がとれる防衛策

では、どうすればまともな根管治療を日本で受けれるのか。
それは、自費治療を受けることである。

理想を言えば、根管治療を含めた完全自費の治療。
少なくとも、根管治療がはじまるときに、自費のかぶせ物を申請しておけば、保険並みの根管治療というのは少ないと思う。
保険の低廉かつ耐久性の低いかぶせ物であれば、根管治療もそれに見合うぐらいの耐久性を持ったものにしかならないだろう。
しかし、高額かつ高耐久のセラミックなどであれば、当然トラブルが起こっては大変なので、きちんとした根管治療が要求される。
もちろん、根管治療に絶対はないが、それでも治療した歯の予後が良い可能性は跳ね上がるはずだ。

根管治療 完