根管清掃のポイント
根管内の残存組織や、感染物質の除去は根管治療において最も基礎となる処置である。
前回解説したように、根管の形状は複雑そのもの。
その根管をいかにして処置しやすくするかが、カギとなる。
根管の直線化
根管はファイルと呼ばれる手用切削器具で、拡大・清掃(ファイリング)される。
ファイルは通常ステンレス製であり、ある程度の弾性を持っている。
そのため、ある程度の根管の湾曲には追従できる。
とはいえ、その湾曲量には限度があるうえ、切削時に曲がったファイルが戻ろうとする力が働き、切削量が根管のまっすぐな部分と湾曲部でムラが出てしまう。
そのため、可能な限り直線化して、正確にファイリングできることが望ましい。
根管上部の拡大
歯の根は先が細く、上にいけばいくほど太い場合が多い。
つまり、上部は多少削ったところで歯を壊す心配がない。
そこでおこなわれるのが、上部根管の拡大である。
根管の入り口は漏斗状に拡大し、切削器具ができるだけ抵抗なく入るようにする。
それをさらに効果的にするため、大臼歯部では残存歯牙の外側・手前側を可能な限り落とす。
根管ができるだけ見えること、アプローチしやすいことは根管治療の鉄則。
これがきちんとできると、正確さとスピードは上がる。
上部の根管拡大イメージ・拡大前の右側に比べ、左側は直線的なアプローチが可能
これがどれだけできているかで、だいたいの歯医者の腕前はわかる。
私の感覚では、歯医者が10人いて合格点を出せるのは1人くらい。
私は、最初にニッケルチタン(形状記憶合金)の電動ファイルで、神経の通じている根管を大まかに探る。
その後、ゲーツドリル、ピーソーリーマーという上部根管の拡大用ドリルで徐々に大きくしていき、最後に先端のみ切削能力のない側方拡大バーで目いっぱい拡大する。
ここまでくれば、根管の上部における、ファイルの切削抵抗は消失する。
術者は根尖10ミリ程度の作業に集中できることとなる。
ゲーツドリル
ピーソーリーマー
側方拡大専用のバー・山田バー
上部根管の分岐の消失
上部根管の拡大には、根管上部の枝分かれをなくすメリットもある。
上顎第一大臼歯の近心頬側根と、上顎第一小臼歯には、根管では複数本の根管が、途中で合流して一本になるケースが多くみられる。
このような根管は、もともとの形状のままでは完全な拡大清掃は難しい。
上部根管の分岐部分を一本化することで、治療の正確性は高くなる。
根管治療のカギ
根管治療の良しあしは、実は最初の根管入口の処理で決まるといって良い。
難しい治療であれば、簡単にできるようにするのがスマートなやり方。
この作業ができているか否かで、その後の治療は大いに変わる。
いかに基礎がしっかりできるか、それが根管治療のその後を大きく変えるのだ。