通常、このような状況での唾液分泌量低下で疑うのは、口呼吸。
そして、シェーグレン症候群。

口呼吸は文字通り、口での呼吸を主とすること。
本来ならば鼻腔を経由して呼吸することで、加湿や異物のトラップ、鼻水中のリゾチームなどによる免疫作用を呈する。
唾液は抗菌作用をもつ物質を多く含んでいる。
ラクトフェリン、リゾチーム、免疫グロブリンAなど。
これらが歯周組織や歯牙のう蝕を防止する。
そのため、口腔の乾燥による口腔内の唾液量の低下はう蝕や歯周病の発現を著しく促進する。

対して、シェーグレン症候群は自己免疫疾患の一種。
主な症状は眼症状と、口腔内症状。
50歳を中央値として、女性に多く好発する。
男女比はおおよそ1対15。
原因はよくわかっていない。

人体にとっての異物を攻撃する免疫システム。
この矛先が自分に向いた状態、これが自己免疫疾患。
のべつ幕なしに自分の細胞を攻撃するのではなく、特定の細胞の表面にあるタンパク質を認識し、細胞を敵として攻撃する。
攻撃された細胞は、次第にその数を減らしていくことになる。

シェーグレン症候群はその矛先が、涙腺、唾液腺といった分泌腺を構成する細胞群に向いている。
そのため、唾液や涙の分泌が低下し、口腔乾燥、ドライアイといった症状がでる。
唾液腺と涙腺、そのどちらにも症状が出ることが多いのがシェーグレン症候群。

眼瞼結膜の充血と、頭痛はドライアイの典型的な主症状、くわえて瞬きの多さもそれを後押しする。
シェーグレン症候群により、唾液の分泌量が低下し、引き起こされた口腔乾燥症により味覚障害が発生したのではと推測したわけだ。

シェーグレン症候群のみならず、自己免疫疾患はできるだけ初期段階で治療し、その症状を寛解にもっていくのが鉄則。
早速、近くの歯科大学の口腔外科に紹介状を書く。
シェーグレン症候群疑いのため診断と御加療お願いします、と。

ところが、何週間後か、異常なしの診断の返信とともに当院に返ってきたのだ。