歯周病治療と薬剤

抗菌薬の正しい使い方については、以前「間違いだらけの抗菌薬選び」で長々と解説した。
今回は歯周病に限って、ざっくり解説する。

マクロライドの問題点

歯周組織への移行率が高く、バイオフィルムをも突破するマクロライド。
いったいこれのどこが問題なのか。

何かと問題の多いマクロライド

マクロライド系のジスロマック

 

耐性菌を誘導しやすい

マクロライドは、とにかく耐性菌を誘導しやすい薬剤。
乱用がたたって、すでにグラム陽性菌の半数以上が耐性を獲得してしまったほど。
普段使いしていると、体内の細菌が耐性菌に置き換わってしまう恐れが高い。

代替できない治療がある

マクロライドの特徴して、細胞内に入り込むことがあげられる。
細胞内寄生細菌など、通常の抗生剤が入れないところにまで追っかけてって、目的の細菌をたたく。
マイコプラズマ肺炎などは、この手の抗菌剤でしか倒せない。

びまん性汎細気管支炎の治療や、ピロリ菌の除菌もマクロライドが欠かせない。
一方、歯周病菌はマクロライドでなくても殺せる、むしろ安全で強力な殺菌力を持つ抗菌薬は他にある。

抗生剤の使用の原則

抗生剤の望ましい使い方として、できるだけ目標とする細菌のみをたたく、ということがある。
マクロライドは抗菌スペクトルがめちゃめちゃに広い、つまり関係ない細菌まで広範囲に殺してしまう。

歯科での抗生剤

実は、薬の投与が必要になる歯周病の起因菌はそれほど多くはない。
普通であれば、せいぜい4属程度にとどまる。
Streptococcus Anginosus 属・Peptostreptococcus 属・Prevotella 属・Fusobacterium 属
やや広めに見積もっても、この程度のもの。

これらの細菌には、ペニシリン系とリンコマイシン系の二つの系統の抗生剤で、ほぼ倒すことができる。
殺菌力としては非常に強いが、抗菌スペクトルは狭く、余計な細菌は殺さない。(詳しくはこちら)
マクロライドは、スペクトル的には完全にオーバースペック、殺菌力的には物足りない。

まとめ

マクロライドが使用される背景には、歯石や歯垢の除去をせずとも、歯周病菌をたたくことができるということに他ならない。
しかし、マクロライドは非常に特殊な抗生剤、全身疾患などでなくては困る場合がある。
そのようなときに、マクロライドが効かなくなっていてはどうしようもない。
実際、マクロライド耐性の細菌はものすごい勢いで増えつつある。

マクロライドは温存すべきエースのような薬。
本来、歯周病ごときで使用してはならないのだ。
実際にマクロライドは、大学病院や歯科以外の病院などでは使用制限がかけられている薬。
歯科での乱用が、大問題となっている。

マクロライドでなければ倒せないなら仕方がない。
実際私も、難治性の歯周病や、細胞内寄生細菌が関与する症状(STDなど)については投与する。
その頻度は、少ない。
間違っても歯周病の第一選択薬とすべき薬ではない。

続きます