熱中症とは 後編

熱中症のメカニズム

熱中症にはその機序において、いくつかの要素に分けることができる。
こちらは旧分類型に準処する。

熱失神/末梢血管の拡張

人間が熱を放出し冷却するメカニズムが大きく関与する。
暑くなると、過剰な体温を調節するため、皮膚近くの血管は拡張する。
こもった熱を体表近くに輸送して、発散させる。
エンジンのラジエーターと同じ原理。

逆に寒いときは、体表の血行を制限して体温の喪失を防ぐ。
酔っぱらって凍死するのは、アルコールで血管が拡張して体温が奪われすぎるためである。

体表近くに大量に血液が集中した結果、血液が不足して血圧が低下する。
(冬場は逆のため、血圧が上がりやすくなる)
大脳に送る血液が一時的に足りなくなり、立ちくらみ・めまい・失神をおこす。
これを熱失神という。

この熱失神は、熱中症の重症・軽症にかかわらずおこりうること。
そのため、熱中症を過小評価することがあり、日本救急医学会のガイドラインが設定された。

熱疲労/脱水

人間が熱を放出し冷却するメカニズム、もう一つは気化熱。
血管を通して体表近くに集積された熱を、体外に効率よく発散する必要がある。
この熱を、人間は体表に汗をかくことにより気化熱として放出する。

体表からの水の蒸発スピードが、熱の放出効率そのものである。
それゆえ、湿度が高いと蒸発しにくく、体温を下げにくいため熱中症リスクが高くなる。

この冷却に利用する水が不足することがある。
長時間水分を取らないことでおこる脱水症状。
全身倦怠感・吐き気・頭痛・めまい・悪寒・食欲不振などに陥る。

このような脱水症状からくる症状を、熱疲労という。

熱けいれん/塩類の消耗

汗をかくと、乾いた後の汗から塩をふくことがある。
汗には塩分が含まれている。
つまり、汗をかくと失われるのは水だけでなく、主にナトリウムを中心としたミネラル。

人間の細胞には、ナトリウムを細胞外に汲み出し、カリウムを取り込むことで膜電位を保つ仕組みがある。
これにより普通の細胞では浸透圧を調整している。
また神経細胞では、この膜電位を逆転することで、神経刺激となる。

ナトリウムが体外に過剰に流出すると、このナトリウムとカリウムの細胞内外での平衡が崩れてしまう。
すると、筋肉の収縮に関与する神経の脱分極がおこり、筋肉が収縮する。
収縮が過剰に連続しておこるのがけいれんである。

このようにミネラルの平衡の崩れでおこるけいれんを、熱けいれんという。

熱射病/調整能の喪失

体温があがり、脱水が進行していくと、発汗による体温調節も失われていく。
さらに中枢での体温上昇が、体温などの恒常性の調節能を喪失させる。
意識障害・体温40度以上・発汗停止、これらを熱射病の3主徴という。

進行するとこれらの症状に加え、多臓器障害・血液凝固異常など生命にかかわる症状にまで進行する。
極めて危険な状態である。

高体温

メカニズムから見る熱中症

熱中症のメカニズムを理解することで、現状の体で起こっている状況を把握することができる。
しかしながら、熱中症は様々な症状の合併した症候群である。
それゆえ、熱中症の予防においては旧分類を把握し、対策することが望ましく、実際に発症した場合にはガイドラインに基づく重症度分類で治療にあたることが望ましい。

では、どのように対策すればよいのか、次項において具体的に述べていく。

続きます。