歯の破折の原因

前歯が折れた

ここの所、前歯の破折で来院した患者が続いた。
食事をしていて折れたり、睡眠薬で記憶が飛んでいるうちに折れたり。
通常、殴られる程の衝撃や、事故でもない限り歯は折れるものではない。
しかし、状態によっては歯はもろくも折れてしまうことがある。

失活歯とは

歯が折れやすい状態、それは失活歯。
平たく言うと、神経の死んでしまった歯である。

歯の神経が死んでしまうのは、虫歯に侵されてしまった時だけではない。
打撲などの衝撃や、熱への暴露、知覚過敏などによる慢性的な炎症などでも変性をおこし死んでしまう。
場合によっては、痛みもなく気づかないままにおこることもまれではない。

神経が死んだ歯は、いくつかの経過をたどる。

・神経が枯死してミイラ化
・死んだ神経が免疫系に異物として認識され、根尖に病巣を形成。
・残存血液などの色素が象牙細管に滲出し、歯が変色。
・破歯細胞が入り込み、歯の内部が吸収・破壊される。

こうなると壊れたり、歯が変色したり、歯の根の先が化膿して腫れてようやく気づくこともよくある。

なぜ、壊れるのか

歯は神経とともに、血管が走行し、内部で歯を壊しては造るといった代謝がおこなわれている。
人間の体の他の部分と同じように、常に生まれ変わっているのだ。

それが神経の死により停止すると、歯はもろくなる。
枯れ木が生木と違い、簡単に折れてしまうのと同じ理屈。

年齢とは関係なく折れる。
今まで高校生で折れてしまった症例を複数診ている。
折れる方向は大体根尖方向で、抜歯にせざるを得ない場合が多い。

恥ずかしながら、私も高校生の頃の不摂生の結果、根管治療した歯がある。
3年ほど前、鮭とばを食べていたところ、たいそうな音とともに破折した。
幸い破折方向が斜めだったため、コアを立て直し、修復できた。
これは幸運な例。

どのような治療をすればよいのか。

まず、歯が折れたり、生死が不明な歯が生きているかを確認する。
当院では、パルプテスターという、電気を流して数値的に確認する機器を用いている。
ただし、打撲を受けた直後などは数値が振れまくって正確には出ない。

パルプテスター
パルプテスター

失活が確認されたら、根管治療となる。
放っておくと、根尖に病巣が形成されて予後が悪くなる場合が多い。

炎症の消失、ならびに無菌状態となったところで、根管充填。
そして強度の落ちた歯を補強するために土台となるコア(芯)をたてる。
そして形成、印象し、歯の咬合面もしくは全周を締めこむような補綴物を入れて終わりとなる。

よく、根管充填後に補綴せずにレジン等で埋めただけのものをみる。
これは、もろくなった歯にとっては強度不足、いつ壊れてもおかしくない。
実際に壊れて抜歯する羽目になる症例はよく遭遇する。

文頭に挙げた患者も、歯が失活していた。
普段壊れる理由のない歯が壊れるとき、それは歯が何らかの変化を受けた結果であることが多い。
歯がダメになるときは、必ずしも痛みを伴うわけではないのだ。

歯が折れる 完