無痛治療とは

昔、麻酔は痛かった

歯医者は痛い。
万人に共通するイメージだろう。
特に私のように40代半ば以上の人は、子供のころ麻酔をドカッと一気に打たれ、痛い思いをしたことが多いはずだ。
あのころは歯医者が少なく、押し寄せる患者をさばくため歯科医は有無を言わさず一気に麻酔をしたものだ。
今思えば痛くないはずはない。
今でも古い先生などは、同じように麻酔を打っている。

痛くないように麻酔するには

私は、麻酔が苦手。
注射全般、打たれるのが苦手な方だ。
そこで、徹底してどうすれば痛くないかを追求してきた。

表面麻酔

麻酔の針が進められ、最初にちくっとする。
緊張のため、全神経がそっちに集中してるため結構痛く感じる。
それを緩和するのが表面麻酔。

ゲルタイプの表面麻酔
ゲルタイプの表面麻酔薬

刺入点付近に塗布するとずいぶんマシになる。
打たれたことに気付かない人も多い。
普段当院で使用しているのが、麻酔の濃度20%のゲルタイプのもの。
場合によっては、麻酔の濃度65%というとんでもないシールタイプも使う。
もっともこれは、点滴前に普通の皮膚に貼るもので、歯科用ではない。
普通に打つ麻酔薬のアンプルがわずか2%なので、その濃度の高さがわかろうというもの。

シールタイプのペンレス
ペンレスのシート

注射針

注射針は、できるだけ細い方が痛くない。
ただし、細いと打つときに力がいるし、時間もかかる。
それでも細いだけでずいぶんと違うものだ。
当院では、通常注射針では世界で一番細い針、33Gを使用している。
細さは驚きの0.2ミリ、髪の毛2本分に過ぎない。

33Gの注射針
極細の注射針

温められた麻酔薬

麻酔が痛く感じるのは、体温との温度差もある。
そこで、人肌の温度に温めたものを使用することで、痛みを緩和する。

保温器
麻酔の保温器

電動麻酔器

小さいころの麻酔が痛かったのは、麻酔薬を太い注射針で一気に入れたため。
麻酔の効果が現れる前に、圧力が急激に上昇するのだから痛くないわけがない。
このような急激な内圧の上昇を抑えるのが、電動麻酔器。
人の力ではコントロールできないくらいのゆっくりしたスピードで麻酔を注入していく。

電動麻酔器・カートリエース
電動麻酔器

ちょっとしたコツ

何か鋭利なものが刺さる際、刺さり方で痛みが変わる。
それは、刺された場合と、自分から刺さりに行った場合。
後者の方が痛みが少ない。
そこで、少し粘膜を引っ張っておいて、針をあてる。
引っ張った粘膜を開放すると、粘膜は針に刺さりにいく。
これだけでずいぶん痛みが少なくなる。

ダメだったもの

試行錯誤は時に失敗を生む。
「シリジェット」という針の無い麻酔装置がある。
空気圧で一瞬のうちに粘膜に麻酔液を打ち込むというシロモノ。
重く堅牢で、値段も高い。

シリジェット

シリジェット画像

まだ駆け出しだったころ、勤務先の医院に使われずに放置されていた。
どうして使わないのか聞いてみると、じゃあ使ってみな、といわれた。
歯周病で歯ぐきを切開して膿を出す患者がいたので、使用してみた。
パシュッ、パシュッと打ち込むたびに、ビクンビクンとのけぞる患者。
痛みが一瞬になっただけで、痛みが無くなった訳ではないのだ。
その後、シリジェットは再び封印された。

理想的に無痛診療を受けるには

当院では、可能な限り痛みなく治療できるように準備がある。
しかし、炎症がひどい場合など、麻酔が効きにくい場合も少なからずある。
早め早めに受診をして、ひどくなる前に治す、これが最高の無痛診療といえるだろう。

痛くない麻酔 完