甲状腺ホルモンは体の代謝の調整にかかわる。
人間の体はバランスの上になりたっているため、それが多すぎても少なすぎてもいけない。

甲状腺ホルモンの不足による疾患は、甲状腺機能低下症という。
男女比は1:10と圧倒的に女性に多い。
甲状腺刺激ホルモンは全身の代謝を促進するホルモンであるため、不足すると全身がエネルギーを利用できず、いろいろな器官の働きが低下する。
具体的な症状としては、無気力、寒がり、動作緩慢、便秘、傾眠、、易疲労感、眼瞼浮腫、体重増加、嗄声(かすれること)、記憶力の低下など。
高齢者では痴呆様の症状を呈することがある(痴呆と違うのは、甲状腺機能回復でもとに戻る)。
総合的にまとめると、活動性が大きく低下するとともに、活気がなくなる。

発症のメカニズムは、甲状腺自体の機能が低下する原発性のものと、甲状腺自体には問題がないが甲状腺刺激ホルモンが不足しておこる中枢性のものがある。
そのほかにも手術や放射線治療により、甲状腺自体がなくなってしまったりすることによりおこる。

原発性のものは、主に甲状腺が破壊される疾患によるもので、甲状腺機能低下症の多くがこれにあたる。
急性甲状腺炎などの一過性のものは無自覚に過ぎることが多く、特に治療は必要ない。
しかし、橋本病などの慢性甲状腺炎は、自己免疫疾患により甲状腺が自己攻撃されておこり、これが原発性のものの多くを占める。
発生頻度は高く、軽度のものを含むと、成人女性の3~10%程度に及ぶ。
不足する甲状腺ホルモンを分泌させようと、血中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)は高値を示す。

中枢性のものは、血中のTSHは低値を示す。
脳下垂体でのTSHの分泌の低下や、視床下部からの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌低下によっておこる。
非常にまれだが、中枢性のものは腫瘍など深刻な病変を疑う必要がある。

いずれの場合にも、治療は合成甲状腺ホルモンの投与がおこなわれる。
副作用はほとんどないと言っていい。

歯科治療における注意点は、治療時における突発的な変化はない。
しかし、代謝が低下しているため、創傷治癒遅延や、薬剤の代謝の低下に注意を要する。
特に外科処置後は、治癒の遅れがあるため、それを考慮した治療計画を立てる必要がある。
薬剤は、肝臓・腎機能の低下を考慮し、過量投与にならないよう減量等の検討をしなくてはならない。

続きます