黒色に変化した舌。
これは舌の糸状乳頭が角化亢進し、黒色色素を産生する微生物により着色したもの。
原因の多くは、抗生剤服用による菌交代でカンジダによるもの。
やっとのことで正常に戻した細菌叢がどうして崩れてしまったのか。

前回、私の診察の終わったその足で、整形外科を受診していた。
心労やらで体力が低下していたため、帯状疱疹を発症していたため。
帯状疱疹は帯状疱疹ウイルス(VZV)が体内の神経節に潜伏していたものが、再活性化することでおこる。
最初の感染は水ぼうそうであるが、再活性化ではVZVが潜んでいた神経節の支配領域に限局的におこる。
そのため、神経の走行に沿って帯状に赤い丘疹や水泡が発生するので帯状疱疹の名がある。

治療としては、抗ウイルス薬が用いられる。
ところが、二次感染を防ぐために抗生剤が出されたのが問題だった。
出されたのは、クラリス。
またしても、ジスロマックと同じマクロライド系だ。
何をもってマクロライドなど処方したのか理解に苦しむが、超ブロードな抗菌スペクトルをもつので、場当たり的に出したのだろうか。
皮膚には皮膚の常在菌がいる、その主体はグラム陽性球菌、特にブドウ球菌属。
二次感染を防ぐくらいであれば、第一世代セフェムあたりが妥当。
抗菌薬に対するガイドラインがしっかりした病院であれば、このような処方はおこなわない。
1週間分のクラリスが処方されていたので、即服用の停止を指示する。

肝心の味覚障害であるが、、プラチナノテクトの含嗽で、朝食時に一時的に戻るとのこと。
また、ガムをかむことで多少マシになるという。
これは、味物質を運ぶ唾液分泌の低下によっておこる味覚低下だ。

味覚は味蕾(みらい)と呼ばれる受容体に、味物質が結合することで検出される。
味蕾の味覚受容体細胞の先端である味孔の絨毛に、味覚受容体があり、ここに味物質が到達する必要がある。
味覚受容体は化学受容体であり、ここに結合するには味物質が水溶液になっていなくてはならないのだ。
ところが唾液分泌能が低下すると、唾液は味覚受容体に到達するのに十分な溶媒となりえない。
結果、味覚の障害がおこる。

ではなぜ唾液分泌の低下しているなかで、パサつくことなく食事ができたのか。
また、ガムを噛んで多少マシになったのか。
これは、安静時唾液が低下したと考えればつじつまがあう。
いわゆる、口腔乾燥症。
口腔乾燥症にはいくつか原因があるが、今回はおそらく精神的ストレスによる神経性。

唾液には、食事などの際によく分泌される粘調性に富む活動時唾液と、安静時に多く分泌されるサラサラの安静時唾液がある。
活動時唾液は分泌が低下しなかったため食事には影響はなく、ガムをかむことで分泌され口腔内の湿潤が保たれ多少の寛解を得た。
活動時唾液は普通に出ていたので気づかなかったというわけだ。
ところがさらさらで溶媒となりやすい安静時唾液が低下したため、口腔内が乾燥状態となり、味蕾自体の減少・萎縮がおこったと推測される。
シェーグレン症候群(こちらに詳しい)に代表されるように、安静時唾液の主な分泌部位である耳下腺は、ドライアイでの涙の分泌低下と連動しやすい。
さらに唾液の全体量が減ったことで、味物質の溶媒としての能力も低下した。
結果として味覚が障害されたと考えられる。

ではほかに味覚障害の原因となりうるものはあるのだろうか。

続きます