2週間後、警察病院に送った患者の診察がおこなわれた。
私の見立て通り、扁平苔癬の疑いとなり、病理検査がおこなわれた。
結果はやはり、扁平苔癬。

この結果を踏まえ、皮膚科に転科される。
そこで金属パッチテストがおこなわれた。
結果は白金に陽性あり、予想していたパラジウムは陰性。
ただし、パッチテストに用いる試薬の塩化パラジウムは感作が弱く、陰性に出てしまうこともある。

歯科用の銀歯の原料、保険合金である金銀パラジウムは、アレルギーの原因になりやすい。
中でも、合金のうち多くを占めるパラジウムは特に細胞毒性が強い。
リンパ球幼若化テスト(DLST)では約半数の人が感作する。
そのため、ドイツなどでは歯科用合金にパラジウムは禁止。
そもそも銀歯などは日本独自の代用合金で、パラジウム・銅・亜鉛など毒性の高い金属を含む。
本来人体に使用すべきものではない。
いくら保険で安く医療を受けれるとはいえ、厚生労働省はこのような危険性はきちんとアナウンスするべきだ。

ともあれ、パッチテストからは、歯科金属を全て除去するには根拠が乏しいとされた。
要は原因の特定には至らなかったというわけだ。
そのため、警察病院から当院に戻り、対症療法による経過観察に切り替えることとなった。
一応、前癌状態に区分される疾患であるため、定期的に警察病院での検査は継続する。

扁平苔癬は慢性に経過するが、時として症状がひどくなる場合がある。
その場合には、ステロイドを含むケナログを局所投与する。
ただし、長期投与は口腔カンジダ症を誘発する恐れがあるので避けるようにする。
寛解期にはアズレンでうがいを励行する。
アズレンはネオステグリーンなどの殺菌を目的としたうがい薬と違い、消炎に重点を置いたアズレンスルホン酸ナトリウムを主成分とする。
病原性微生物が炎症の原因でない場合は、こちらが適切。
ただし、二次感染が疑われる場合はこの限りではない。

その後は当院にて月一度のメンテナンス時にチェックをおこなっているが、大きな変化はなく寛解している。
ただし、慢性疾患ゆえ白いレース様斑は消失しない。
前癌状態とはいえ、このように管理下でコントロールできていれば、大きな心配は不要である。

口腔扁平苔癬 完