人間の鼻の周囲には、いくつかの骨空洞があり、鼻とつながっている。
これらの空洞を、副鼻腔という。

副鼻腔はときに炎症をおこす、これを副鼻腔炎、一昔前の言い方ではちくのう症と呼ぶ。

副鼻腔のなかでも、上あごの歯の直上にある空間は比較的大きく、上顎洞という。
この上顎洞は、歯の生えている骨と非常に近接している。
臼歯部に至っては、上顎洞の壁を歯槽部が構成しているような状態だ。
人によっては、上顎洞底から、臼歯の歯根がタケノコのようにニョコニョコと突き出ている。

歯科の大きな写真、パノラマでみると、上顎洞ははっきりみえる。
上顎洞炎を患っていた患者では、上顎洞底部に粘膜の肥厚がはっきりと確認できる。

今回のケースでは、パノラマ上で、問題の歯の周囲に上顎洞底を含む炎症所見がみられた。
これは歯が原因の歯性上顎洞炎だ。

虫歯が進行すると、象牙質を突破し、神経のある中心部、歯髄に達する。
歯髄は歯の根の先端部、根尖につながる空洞で、ここが細菌汚染されると一気に歯槽骨内まで感染が至る。

下顎などでは主に下顎骨に病巣を形成するにとどまることが多いが、上顎は上顎洞が存在する。
そもそも上顎は下顎に比べ骨量・血流量とも貧弱で、感染に対して脆弱である。
感染初期は根尖部組織に病巣を形成するが、そこを突破されると厄介だ。
上顎洞底部に出現した火山のように、膿の噴火をおこす。

そうなると、症状は口腔を飛び越え、鼻腔にまで及ぶ。
今回は耳鼻咽喉科領域にまで達したため、耳鼻科を先に受診したわけだ。

問題の歯はC4、残根状態で保存不能、ペニシリン系抗生剤で消炎し抜歯した。
その後、嘘のように副鼻腔炎は寛解。
原因を除去しない治療は、無意味。
必ず再発する。

歯科治療において、ときに耳鼻科との連携は必須となる。
突き詰めすぎて、医学部に入り直し医師免許を獲得した同門の多いこと。

幸い、当院の向かいには加藤耳鼻科がある。
加藤医師は人間的にもとてもとても良い先生。
治療も的確で、歯科に問題があれば間髪いれずこちらにまわしてくる。

当院がCT導入を検討していたところ、先にコーンビームCTを導入した。
必要があればとってあげるよー。
ありがたいお言葉。
お言葉に甘えて、必要があるときはお願いしています。
耳鼻科ドクターの所見も得られる最高環境。
というわけで、当院の全てのユニットに付属するコンピューターには加藤耳鼻科のCTソフトが入っています。

耳鼻科と歯科、時に同じ症例を共有する。
たまたまとはいえ、当院では安心して治療できる環境がある。

歯科とて、全身の一部である口腔の責任を担う部門なのだ。