その他の開口障害

前回、前々回は歯科で最もよく遭遇する開口障害を解説した。
開口障害は、他にもいくつか存在する。

外傷性開口障害

骨折などによる開口の障害である。
顎骨骨折の特徴として、外力を受けた部分ではなく、顎骨の離れた弱い部位が骨折することが多いということ。
このような形式の骨折を、介達骨折という。
この骨折は、下顎頭などが折れることが多く、顎の骨折側への偏移を伴うことが多い。

介達骨折の機序
介達骨折

骨折の治療は大変なものになる場合が多い。
観血的処置では、骨折部をプレートやワイヤーで固定する。
非観血的処置にでおこなう、上下額をワイヤーなどで固定する顎間固定などでは、会話すら不可能になる。

また、顎骨でなくても弓骨の骨折や、関節の外傷性の脱臼でも開口障害はおこる。

腫瘍性開口障害

腫瘍による影響での開口障害は、主に二系統に分類される。

口腔領域周辺の腫瘍

顎運動にかかわる筋群や運動神経が腫瘍による浸潤や、圧迫を受けて開口障害がおこる場合がある。
この場合はパノラマレントゲン写真で腫瘍周辺領域の変化がみられる場合があるが、診断にはCTが望ましい。
腫瘍の浸潤の結果として、三叉神経などの知覚障害がみられるなどの合併症が存在することがある。

中枢性の腫瘍

脳腫瘍など、顎運動を司る領域、もしくは運動神経の障害によることでの開口障害である。
この場合は顎自体には問題がない。
それゆえ、自力での運動は不可能であっても、他者が誘導すると顎運動が可能である。
他にも、外傷や炎症、顎関節症などの他の要因が排除された時には、中枢性病変を疑う必要がある。

神経性開口障害

脳梗塞などでおこる開口障害である。
大きな梗塞であれば、おこったばかりの状況では、開口以外にも症状があるため迅速な治療を受けれる場合が多い。
ただし、ラクナ梗塞などの小さな梗塞が由来していれば、口が開けにくい、口が変移する程度の症状である場合がある。
また口腔領域に現れる症状としては、しゃべりにくい、ろれつが回らないということなどもある。(詳しくはこちら
このような症状は、大きな梗塞のおこりうる全身状態であることのシグナル。
速やかに脳神経外科などの診療を受ける必要がある。

大きな梗塞などでの開口障害は、リハビリをきちんと行い機能回復を図る必要がある。
もし十分にリハビリがおこなわれなければ、筋肉の廃用萎縮により、顎運動が不能になってしまう。

神経性の開口障害には、他にもパーキンソン病や球麻痺、小脳疾患などがあげられる。

瘢痕性開口障害

外傷、熱傷、腫瘍の放射線治療後の瘢痕による開口障害。
物理的に突っ張って開かないような場合には、原疾患の寛解後に外科処置などによる開口改善処置をとる。
改善処置にあたっては、慢性炎症などの他の開口障害の可能性が排除されている必要がある。

破傷風による開口障害

感染すること自体滅多にない(1年間に約100人ほど)が、破傷風の初期症状に開口障害がある。
破傷風は偏性嫌気性細菌で、そこいらの土壌などに普通にいる。
それが外傷などで体内に侵入し、感染が成立してしまうと大変だ。
最近の本邦での、感染した場合の致死率は約30%。

破傷風は破傷風菌の産生する神経毒(破傷風毒素)による、けいれん(第三期)を特徴とする臨床症状をしめす。
そのけいれん発作前の、第一期、第二期では、歯ぎしりや開口障害、破傷風用顔貌(ひきつり笑い)といった症状が、潜伏期を経た1週間程度でおこる。
その頻度ゆえに、医療関係者が本感染症に遭遇するのは、宝くじに当たるより可能性が低い。

総論

一口に開口障害といっても、原因は様々であり、きちんとした鑑別が不可欠である。
もし開口障害がおこったら、できるだけ速やかな受診がすすめられる。
ものによっては恐ろしい、それが開口障害である。

開口障害 完