カルシウムの代謝系

カルシウムの貯蔵庫たる骨組織。
骨組織からのカルシウムの出し入れには、パラトルモンとカルシトニンという拮抗するホルモンがかかわる。
ホルモンのターゲットになっているのは、破骨細胞と骨芽細胞。

破骨細胞と骨芽細胞

パラトルモンは破骨細胞に働きかけ、骨の破壊を亢進させることで血中へのカルシウムの放出を促進する。
対してカルシトニンは、骨芽細胞による造骨を促し、結果として血中のカルシウムは骨中に取り込まれ、減少する。
これが、骨を介したカルシウム調整系のメカニズム。

ビスフォスフォネート製剤

ビスフォスフォネート製剤は、骨粗鬆症の薬。
ガンの骨への転移抑制にも用いられる。

ビスフォスフォネート製剤は吸収されると、骨へ沈着し、それを食べた破骨細胞を自爆させる。
そのため、骨の吸収を抑制させ、結果として骨粗鬆症を抑制する。

ところがこの薬、歯科治療において、長らく厄介な存在であった。
あごの骨は強い咬合圧のため、代謝が早くビスフォスフォネート製剤が高濃度に集積する。
その結果、感染防御の骨吸収(骨への細菌感染を防ぐための自己破壊)が十分におこなわれず、骨への感染の結果、顎骨壊死をおこす。
今世紀初頭に日本でも使われるようになったビスフォスフォネートが、抜歯などの外科処置の後、顎骨壊死を頻発させたのだ。

現在では、ビスフォスフォネートの改良が進んで顎骨壊死はほとんど見られなくなり、加えて3年くらい前顎骨壊死治療のガイドラインができたため、特に問題ではなくなっている。

妊娠におけるカルシウム

妊娠中は、胎児に優先的に栄養がまわされる。
そのため、妊婦はカルシウムが不足しがち。
そのため骨からのカルシウムの流出も避けられない。
これが拡大解釈されて、歯が弱くなるといった話になったのだと思われる。

妊娠中のカルシウム不足は当然おこる。
しかし、骨からのカルシウム流出にはそこまで神経質になる必要はないと思われる。
妊娠ならびに授乳が終われば、自然に骨量は回復する。

骨粗鬆症がおこる主な原因は、性ホルモンの低下によって骨芽細胞・破骨細胞による骨の代謝のバランスが崩れること。
性ホルモンの低下は、閉経によってもたらされるものなので、妊娠できる年齢では関係ないからだ。

妊娠時に歯に影響を与えるもの

では、妊娠中に虫歯が多発したのはなぜだろうか。
それは、妊娠性の歯肉炎とつわり。

妊娠を維持するホルモンであるエストロゲンは、それを好む歯周病菌を増加させ、歯肉炎をおこす。
人によっては、歯が埋もれて見えなくなるくらいまで歯肉が増殖する。

また、つわりは吐き戻しによる胃酸での歯の侵襲の他、歯磨き自体が吐き気を惹起してしまったり、食べつわりによる間断ない摂食を引き起こす。
これらのことが、妊娠中の口腔内の環境悪化の原因。

妊娠中に避けがたい口腔環境の悪化、これに対して歯科における口腔清掃は効果的である。
カルシウムのせい、とあきらめず、歯科でしかるべき妊娠中のメンテナンスをおこなってほしい。

妊娠中は口腔清掃に注意を払ってほしい
妊娠中

妊娠とカルシウム 完