虫歯でないけど歯が欠けた

奥歯が痛い、冷たいものがしみる、虫歯だ、と言って来院される患者がいる。
虫歯であれば当然このような症状が出てくる。
しかし、虫歯が全くなくとも、このような痛みを覚える場合がある。

ひとつは、知覚過敏。
歯周病などで歯ぐきが下がって象牙質が露出するとおこりやすい。(詳しくはこちら
そしてもうひとつが、くさび状欠損。
歯の根元の歯質が、欠けてしまう欠損である。

くさび状欠損とは

歯冠を構成するエナメル質と、歯根を構成するセメント質。
その境界付近はそれらの表層硬組織が薄く、比較的柔らかく強度の劣る象牙質が表層近くまで達している。
また、この部位は上方からの咬合圧による応力が生じやすい。

歯頚部付近の硬組織イメージ
歯頚部付近の硬組織

その結果、脆弱なこの部位に咬合圧がかかると、硬組織が脱落しやすい。
脱落した硬組織が、くさび状の断面をとることから、くさび状欠損と呼ばれる。
歯科医師はこれの別名、WSD(Wedge shaped defect)と呼ぶことも多い。

応力がかかり、硬組織がくさび状にはじき出される
硬組織の逸脱

程度は、非常に浅いものから、ひどい場合には神経にまで達する場合がある。

くさび状欠損 その1
くさび状欠損 その1

くさび状欠損 その2
くさび状欠損 その2

症状

欠損以外の症状が全くない場合から、冷たいものがしみるといった知覚過敏程度の症状、さらには歯髄炎をおこすものまで、う蝕による実質欠損の場合と変わりはない。
ただし、欠損が割と緩徐に進行するため、二次象牙質が形成され、神経症状にまで至らない場合が多い。

高齢になるほど発症率は増し、50台でピークを迎える。
好発部位は、小臼歯部と犬歯。

原因

かつては歯の磨きすぎが原因といわれていた。
いまだにそう説明している歯科医も多い。

しかし、歯ブラシの届かない歯の間や、犬にもくさび状欠損がみられることから、歯の磨きすぎ説は否定されてきている。
歯を磨く犬がいる訳がないからである。
また、歯ブラシと研磨剤では、エッジの効いた欠損は考えにくい、ラウンドフォルムをとるはずだからだ。

現在考えられている原因の主流は、歯ぎしりや高い咬合圧による歯頸部への応力集中。
歯周病などで歯ぐきが下がって、歯頸部付近の歯肉が低下する。
その付近の歯質の再石灰化やフッ素の取り込みなどで硬度が上がると、ガラスがもろいように歯ももろくなる。
そこに強い咬合圧による応力が集中すると、実質ははじき出されてしまう。
これが、くさび状欠損の原因と考えられている。

治療

欠損部をレジンで修復したり、知覚過敏処置材などで処理することが多い。

私は、症状がなければ放っておくことが多い。
歯頸部付近に発生するくさび状欠損にレジンを充填すると、樹脂がプラーク(歯垢)や汚れを吸着して、歯周組織に悪影響を与えがちだからである。
もちろん痛みなどの症状や、入れ歯のバネなどの構造がかかる際の障害になる場合は、修復する。

総論

くさび状欠損は、う蝕のように病的なものではない。
しかしながら放っておくと、欠損が大きくなる場合もある。
何より、歯周病が進行して歯ぐきが下がった箇所におこる場合が多いので、歯科医院で経過をみてもらうのが賢明だと思われる。

くさび状欠損 完