見逃された歯根破折

60代前半女性。
右上3番の歯肉の腫脹を主訴に来院。
歯肉にフィステル(膿の出る穴)が開いており、抑えると膿が出てくる。

初診時のパノラマ写真
パノラマ写真

歯ぐきの腫れ
歯ぐきのフィステル

前医での治療

前医では根管治療をおこない、その後補綴した。
が、治したにもかかわらず、歯ぐきは腫れて一向に治まる気配はない。

前医に訴えても、治ってる、腫れていないの一点張り。
そんなこんなで1年半たったが、らちが明かず、当院に来院したというわけだ。

前医の名前を聞いて、妙に納得。
近くの某インプラントセンターの院長である。
派手なホームページで集客しているが、腕は相当に残念で、私もかなり、彼のやらかした治療の後始末をやらされる羽目になっている。
彼の研修先の某県立医大では、一番下っ端で、在留実績がほとんどないにもかかわらず、大学病院の名前を使われて問題になっているとのこと。
これは、私の先輩の、彼の元指導教官から直接聞いた話。

診察

フィステルがあるということは、そこに病変があるということ。
それがどこから来てるのか、が診断のポイントとなる。

画像診断

まずはデンタル写真を根尖まで入れて撮る。
この写真では、特に歯周病や根尖病巣は見られない。

犬歯のデンタル写真
犬歯デンタル

次に、フィステルから、X線透過性の無いアクセサリーポイントを挿入して撮影。
根管充填に用いるこのゴム由来のポイントは、しなやかにフィステル内を通過し、病巣に至る。

造影ポイント挿入して撮影したデンタル写真
アクセサリーポイント挿入

画像から、アクセサリーポイントは3番の歯根に到達。
これで疑われるのは、十中八九、歯根破折。
つまりは歯にヒビが入っているということ。

ポケット審査

歯根破折の場合、破折したヒビに沿って深く歯周組織の破壊がおこる。
3番の全周に沿って深く入るところがないか探してゆく。

ポケットプローベ。歯茎の深さを測る道具
歯周病検査用プローベ

歯周ポケットの検査では一見正常
正常な歯肉

一か所根尖付近まで入る部位がある
破折位置でのプローベ

周囲のほとんどは2ミリ程度の深さ。
しかし、予想通り、一か所10ミリをこえて入るところがあった。
歯根破折の診断が確定である。

総論

歯根破折により、この歯の保存は不可能と診断した。
患者は、抜歯になることは残念だが、原因がわかって良かったとのことだった。

根管治療において、歯根の破折は避けられない場合がある。
しかし、それを見抜けないのは困りもの。

インプラント治療の営業に精を出すのは結構だが、最低限の歯科の治療はできるようになっていただきたいものである。

歯根破折を放置された 完