トライセクション

根分割して、健全な方の歯根を残す抜去術。
2根の歯に行うものをヘミセクション、上顎大臼歯など3根に行うものをトライセクションという。
今回は、トライセクションの症例。

初診時の所見

40代女性。
右上6番、他院で根管治療中で抜歯といわれ、当院を受診。
手前の5番は幼少時の矯正で抜去済み。
強い痛みを訴える。

初診時パノラマの一部
初診時パノラマ抜粋

仮封材を除去すると、P根(口蓋根)から膿が噴出した。
MB(近心頬側根)根付近にはフィステル(膿の出る穴)がみられる。
病巣が大きく、フィステルからの造影では、手前4番にレントゲン上ではかかってるように見えたので、生死を確認する。
電気診で生活反応あり、幸い4番は生きていた。
排膿が多いため、開放とし、ペニシリン系抗生物質を3日投与する。

右上6デンタル
右上6根尖像

フィステルからの造影ポイント挿入写真
造影写真

根管治療開始

消炎後、根管治療を開始する。
P根,D根(遠心根)は問題なく拡大できる。
ところが、MB根に電気根管長測定装置を入れると、振り切れる。
パーフォレーション(もともとの根管以外の部位での穿孔)があるためだ。
病巣の元凶は、これらしい。

MTAセメントによる治療法

パーフォレーションに対する治療は、なくはない。
私はプロルートセメント(MTAセメント)を用いる。
もともとの根管に通常の根管充填をおこなった後、歯根膜の再生も期待できるセメントを押し出すようにして破孔をふさぐ。
もともとの根管の根管充填は簡単ではない。
電気根管長測定が効かないためだ。

では、どうするのか。
私はもともと根管治療が専門。
手指感覚のみで、ファイルが根尖通過した感覚がわかる。
ただし、風邪をひいてもこの感覚は分からなくなる。
それぐらいデリケートな感覚。
電気根管長測定器がなかったころの歯科医師は、この感覚で治療していた。
おそらく、現在この感覚を持つ歯科医師は、まずいないと思う。
この通過位置を測り、根管形成をおこなうのだ。

根管充填後、破孔位置より上のガッタパーチャーポイントを除去し、MTAを送り込んだ後、上部根管をフジナイン等で閉鎖する。
簡単に説明しているが、口でいうほどやさしくはない。
特にMTAを送り込む技法は私のオリジナル、詳しくは書かない。
これらの治療および、治療後の補綴は自費となる。
MTAは非常に高価なセメントで、1g18,000円もするためだ。

破折根を除去する方法

パーフォレーションをおこしている歯を、根分岐部より切除・抜去する方法。
今回は病巣が大きく、根管治療では治療しきれないため、この方法をとることにした。

トライセクション

P根、D根の根管治療には、3か月弱を要した。
その間、MB根には水酸化カルシウム製剤を直貼しておいた。
根管充填が終わったところで、部分抜去をおこなう。

P根、D根の根管充填後の確認デンタル
根充確認デンタル

MB根切断を根分岐部でおこなう。
ヘミセクションと異なるのは、切断部位には根管孔が露出する。
そのため、切断面をスーパーボンドで被覆する。
脳外科などでも用いられるこのセメントは、生体親和性に優れる。

頬側の歯槽骨は、病巣の拡大に伴い喪失していた。
根尖病巣の剥離除去後、縫合し、閉創。
1週間後、抜糸をおこなった。

予後

抜糸から2週間後、問題の無いことを確認。
さらに抜歯窩が落ち着いた2週間後、コアの印象をおこなう。

患者の希望で、メタルボンドによるセラミック補綴となった。
矯正していたため、6番の歯牙が5番の位置に来ているため、目立つからとのことである。
歯冠形態の形成は、なかなか難しかった。
術後2年半以上たつが、予後は良好である。

トライセクション 完