今回、患者におこったのはクインケ浮腫と呼ばれるまれな疾患。
北大病院でも私は見たことがなかった。
類似した疾患として、非アレルギー性のじんましんがある。
浮腫が深在性におこるのに対し、じんましんは浅在性で体表近くにおこる。
クインケ浮腫をじんましんの一形態とするものもある。
ともにヒスタミンの血管透過性の亢進を原因とし、両者の併発を伴う場合もある。

クインケ浮腫には先天性のものと後天性のものとに大きく分けられる。
先天性のものは遺伝性血管性浮腫(HAE)と呼ばれ、補体第1成分阻害因子(C1-INH)の遺伝子コードの異状による。
体中どこにでも一過性の浮腫として発現する。
しかし、HAEの発現家系は、日本ではわずか20家系ほど。
めったに見られる症例ではない。

後天性のものは、原因がはっきりしているものとしては、薬剤の副作用がある。
高血圧の薬である、ACE阻害薬などはわりと高率に(といっても0.5%未満)発症する。
他にもアスピリンやペニシリンなど、身近な薬剤での発症もあるが、頻度は高くはない。
発症は服薬後30分以内におこることが多く、関与している薬剤の同定は容易。
HAEと薬剤性のものはじんましんを伴うことはない。

そして厄介なことに、後天性のもののかなりのものが、突発性。
つまり、原因がわからないということ。
物理刺激によってもおこるとされているが、特定個人に頻発するため何らかのメカニズムがあるのは間違いないだろう。

とりあえず、アレルギー性の浮腫を疑った私は、患者に皮膚科の受診を指示した。
皮膚科では、アレルギー性の所見が得られず、突発性のクインケ浮腫の診断が確定された。
治療は、発症時に抗ヒスタミン剤の服用。

それともう一つ、財布や免許証入れなどの身につけるものに、クインケ浮腫の既往を書いたメモをわかりやすく入れることを指示。
浮腫が気道を圧迫する位置に発生すると、窒息の可能性がある。
その部位での浮腫発生率は1%程度と高くはないが、クインケ浮腫の既往を持つ患者の約50%が経験をもつという。
突然の気道圧迫は即救急の事案、しかし救命の現場で患者の意識があるとは限らない。
他に突然の気道閉鎖をおこす疾患にアナフィラキシーがある。
即アドレナリンの注射を要する疾患だが、これとクインケ浮腫を区別してもらうための配慮。
ともに気道確保が必要なのは同じだが、その後の処置が速やかに行われるためだ。

その後も患者は、浮腫が頻発したが、大事に至ることなく経過している。

非炎症性腫脹 完