HIVは一本鎖のRNAウイルスで、変化しやすい。
そのため、有効なワクチンが作成できない。
ワクチンが有効なのは、変化しにくいウイルスに対して。
天然痘が撲滅に成功したのは、変化しにくい二本鎖DNAウイルスであったためだ。
通常体内に異物が入ると、それを敵としてみなしたうえで抗体がつくられる。
再びその異物が侵入すると、記憶されていた情報をもとに即座に抗体が再生産され、異物は駆逐される。
ところが、変異しやすいウイルスは以前体内に侵入したときと姿かたちが微妙に変わっている。
HIVに至っては、体内でもどんどん変化していくため、常に新手の敵と戦っている状態となる。
イメージでは、犯人が次々整形手術をして追手の目をくらましていく感じ。
感染経路は、血液、精液、膣分泌物、母乳などのウイルスを多く含む体液が体内に入ること。
血液感染、性感染、母子感染が主な経路である。
HIVが厄介なのは、発病までに時間がかかり、その間に他者への感染をおこしてしまうこと。
輸血でさえ、完璧なスクリーニング検査は不可能。
検出できるのは、ウイルスではなくHIV抗体のためで、抗体ができるまでの期間はノーガードとなる。
それゆえ初期感染では、検出ができない期間があるのだ。
このウイルスの恐ろしいところは、劇的な症状で高い死亡率をおこすようなものでないところ。
例えば、極めて高い死亡率と重篤な症状を呈するエボラ出血熱は、人類の生き残りという観点では、そこまで怖くはない。
感染が疑われる集団を一定期間隔離し、終息を待てばよい。
ところがHIVはすぐには発症しないため、感染が広がる。
2017年の世界のHIV陽性患者は3670万人にも上る。
特に西アフリカでの有病率が高い、アフリカ全体で実に世界の三分の二。
日本での有病者は2016年の厚生労働省の推測では29000人ほどで、6000人ほどが感染に気づいていないとされている。
今後、性交渉を介して爆発的に増加する可能性がある。
実はHIV感染症の歴史は極めて新しい。
1920年ごろ、アフリカでチンパンジーを食用としたことが現在流行しているタイプの人間への侵入とされている。
1980年初頭、アメリカで感染者が確認され、すでに世界では手が付けられないほどの流行が起こっていることが判明してくる。
これが、ユニバーサルプリコーション、スタンダードプリコーションといった感染予防に対する新しい概念を生み出すこととなる。
ここまで短期間で人類に感染を広げたウイルスの、その巧妙な感染拡大戦略は人類が初めて向かい合う厄介なものだったのだ。
しかし、人類も手をこまねいて見ているだけではない。
続きます