口腔に症状がでる耳鼻咽頭疾患・後編
味覚障害
鼻疾患で臭いを感じなくなると、味覚がわからなくなることがある。
これは、大脳で味覚と嗅覚を処理する部位が同じため。
味と臭いを統合的にとらえる感覚は、風味と呼ばれる。
人間は物を食べると、味単体ではなく、風味としてとらおえているわけである。
例をあげると、カレーの味は風味そのもの。
香辛料は、味としてとらえられるものでなく、嗅覚でとらえらえるものがほとんどなのだ。
それゆえ、味覚障害で来院された患者が、耳鼻疾患が原因だったということがときおりある。
だからこそ、問診票の他の疾患の欄が重要になってくるのである。
上顎洞炎
以前、歯性上顎洞炎の症例をあげたことがある。(詳しくはこちら)
今回あげるのは逆パターン。
上顎洞炎が歯を侵してしまったケース。
初診時
50代男性、右上4番の腫脹を主訴で来院。
耳鼻科での上顎洞根治術の既往あり。
これは、上顎345あたりの歯槽骨を開削し、病的粘膜を切除する術式。
口腔内からおこなわれる。
切除した歯槽骨のあった部分は、骨の裏打ちを失い、ぶよぶよした感じになる。
上顎洞根治術で開削する歯槽骨の部位
この部分が大きく腫脹したため、来院した。
デンタル上では、4を支える歯槽骨が根尖方向でかなり失われている。
初診時パノラマ(一部)
デンタル・歯槽骨の菲薄化がみられる
中に膿がたまっているので、切開をおこなう。
切ると同時に、上顎洞より尋常ならざる量の膿が噴き出してきた。
これは歯科領域ではない、上顎洞炎の再発だ。
ほぼ上顎洞いっぱいに膿がたまっていたらしく、排膿はなかなかおさまらなかった。
とりあえずネオステグリーンで洞内を洗浄する。
サワシリンを処方する、上顎洞炎での処方はテトラサイクリン系のイメージがあるが、実はガイドラインではペニシリン系が第一選択。
特に今回のようなケースでは、切れの良いペニシリン系は絶対の威力を発揮することが多い。
とりあえずの処置をおこなったので、加藤耳鼻科を受診するよう指示した。
二年後
左下の6の根尖性歯周炎で来院。
右上4は喪失していた。
聞くと、その後症状が落ち着いたため、耳鼻科は受診しなかったとのこと。
やがて4は動揺がおこり、一年ほどで脱落してしまったらしい。
初診時にただでさえ菲薄化していた歯槽骨は、逆行性に失われ、脱落に至ったようである。
二年後のパノラマ(一部)
このように、稀ではあるが、歯性ではない上顎洞炎が歯牙に波及する場合がある。
我々歯科医では、上顎洞は治療できないし、してはならない。
根本的な耳鼻咽喉科での治療が必要である。
鼻疾患と歯疾患 完