梅毒の病態
梅毒ほど臨床症状が多彩に変化していく感染症は珍しい。
症状は4ステージに分類されるが、母子感染による先天性梅毒を加えれば症状はさらに広がる。
ステージごとの病態をみていく。
第Ⅰ期
感染から3週間から6週間の潜伏期間を経て発症する。
初期感染部位にしこりができることがあり(初期硬結)、その所属リンパ節が腫脹する。
鼠径部リンパ節での腫脹が特徴とされることが多いが、これは性器などによる性感染が多いため。
オーラルセックスなどによる感染では、顎下リンパ節など口腔領域のリンパ節が腫脹する。
これらの症状は数週間で消失する。
このステージでは、最初の数週間は抗体出現前で感染が陰性となる。
にもかかわらず菌体の排出があるため、性行為などで他人に感染させる危険がある。
以前にはこのステージでの献血による、輸血による血液感染があった。
しかし、菌の血液中での生存期間の研究が進み、血液の保存期間をコントロールすることで、近年では発症の報告はない。
口唇の初期硬結(出典:日本性感染症学会・治療ガイドライン)
第Ⅱ期
第Ⅰ期から1~3か月の間、最初の潜伏期に入る。
この間も菌体の排出は継続し、感染は起こりうる。
その後、菌体は全身に伝播する。
全身に移行した菌体は、全身リンパ節の腫脹や、倦怠感、発熱をおこす。
また、神経症状、泌尿器症状、筋や骨に症状が及ぶ場合がある。
(注:認知症様の神経症状はかつて末期の梅毒とされていたが、現代では早期にもおこることがわかっている)
この時期に特に特徴的なのが、バラ疹である。
手のひらなどを含む全身に、大豆大の赤い発疹が無数に出る。
厚生労働省の注意喚起では、うっすらと赤いとなっているが、実際はうっすらどころではなく、かなり目立つ。
何もしなくても、数週間で症状は消失する。
症状が出ない場合もある。
口腔内症状として、梅毒性口内炎や、扁桃に白苔を伴う腫脹がおこることがある。
他の発疹などを伴う疾患と誤診されると、非常にまずい。
これ以降のステージでは全身に重篤な症状をきたす。
口腔内症状(出典:日本性感染症学会・治療ガイドライン)
潜伏期
ここから梅毒トレポネーマは眠りにつく。
その期間、実に数年から長い場合は数十年。
3年から十年ぐらいが多い。
この期間は感染がおきなくなる。
ただし体力低下などがあると、Ⅱ期症状が再発することがある。
第Ⅲ期
これ以降の発症は、キャリアの約3分の1。
残りの3分の2は、菌体を体内に有したまま、感染させる能力もないまま、老いていく。
発症すると、心血管症状、ゴム腫、進行麻痺、脊髄癆(脳梅毒)などの症状が出る。
特徴的なものはゴム腫。
皮膚、筋肉、骨などにゴムのような茸様の腫瘍ができる。
審美的に非常につらい思いをする。
病態を放置すると、大動脈瘤や、中枢神経系、大脳が侵され、痴呆様病態を呈し、死に至る。
これらの病態を第Ⅳ期とする場合もあるが、日本性感染症学会ではこれを第Ⅲ期分類に包括している。
続きます