なにをもって上下の顎の正しい位置関係とするか。
これは歯科医師にとって永遠の課題のひとつ。
位置関係は大まかに二つの基準から規定される。
ひとつは、上下顎の歯牙同士が最大の接触面をもって接触し、安定する位置。
これを咬頭篏合位、または中心咬合位という。
これは歯牙からみた場合の安定位。
もうひとつは、左右の顎の関節の、下顎窩と下顎頭が最も安定した状態の位置。
これを中心位という。
関節がずれることなくきれいにはまりこんだ状態といっていい。
これは関節からみた場合の安定位。
この二つの安定位が一致していれば理想なのだが、実際は一致している場合の方が少ない。
特に矯正をおこなった患者ではこの二つの乖離が大きい場合が多い。
顎関節からみた歯牙配列ではなく、見た目を重視するため、歯の位置からみた歯牙配列をおこなうため。
顎関節症の発症率は、矯正していない人と比べると飛びぬけて高い。
咬頭嵌合位は、歯牙が多く失われれば元の位置を失ってしまう。
ぼんやりと筋肉群が長年使用したバランスを覚えているに過ぎない。
では中心位はどうか。
下顎骨は、二つのそれぞれが独立した運動をする関節によりつながった唯一の骨格。
だからこそ、右だけで咬んだり、犬歯だけすり合わせたりといった器用な芸当ができる。
このような運動経路がとれるのは全身で、下顎をおいて他にない。
口を大きく開けるときには、下顎頭は下顎窩より完全に離れる。
顎がはずれるのが、大きい開口なのだ。
一般にいう顎がはずれたは、下顎頭が下顎窩に戻れなくなった状態。
このような複雑な動きをする関節は、年齢とともにその形状が変化していく。
ひざの関節が年齢とともに支障をきたすように。
そのため、本来の中心位は、すでにその年齢では安定した位置をとることが難しくなっている。
とはいえ、どうやってもがっちりとずれのない中心位を保ち続ける人もいる。
歯牙が失われたり、治療で咬み合わせが変化し、咬頭篏合位が失われた場合に、もとあった中心位が再現できない状態にあると、顎位は失われる。
つまり、正しいかみ方がわからない状態。
この状態で補綴されると、かみ合わせが構築できても、中心位が再現できず顎の関節に支障が出る。
これが今回おこっている出来事だ。
続きます