人間の下顎位は、水平方向と垂直方向の成分が独立していない。
下顎の関節が二つ存在し、それぞれが単独で動くため。
いわゆるダブルピボット。
通常関節の一方向に動く2次元運動が、運動にかかわる関節が増えるため3次元運動となる。

正しい顎位を模型上でみると

正常な顎位

上下の歯牙の位置が一致していることがわかります。

中心位がしかるべき位置に存在していない場合をみてみましょう。
患者のかみ合わせが、左が低いか、右が高く、なおかつ顎位が不安定な場合です。

顎位偏位正面像

これを側面からみてみます。

顎位偏位左側面像

下顎骨は反時計回りに回転し(黄色矢印)、下顎頭が下顎窩をつきこむような状態になっている(ピンク矢印)。
模型上では歯牙の配列を動かすことができないため、歯が接触していませんが、実際は患者からみて左後方へ滑り込んでいます。
下顎頭が押し込まれたために、痛みがでたというわけです。
耳の前が痛いのは、顎関節部の解剖的位置がそこにあるから。

それでは肩こりはどこからきたのか。

人間は全身でバランスをとります。
例えばウェイトレスのように右手でお盆を持つとしましょう、すると首から上は左にかたむいてバランスを取ります。
顎がどちらかに偏位すると、当然体のどこかが反対方向に偏位する必要があります。
片一方だけ偏位があると、人間は倒れてしまう。
ずれた分だけ他の部位がバランスしにいったため、倒れない代わりにバランスした肩がこったというわけ。

下顎の偏位に対して、バランスする部位は人によって違う。
首の傾きだったり、背骨の湾曲、骨盤の偏位など。
ひどいと歩けなくなる場合まである。

インナーマッスルとよばれる、体の姿勢をこまかく修正したりする筋肉群がしっかりある若い人なら問題にならなくても、筋肉の衰えてきた高齢者には許容範囲をこえて症状が出る。

姿勢制御というのは非常に高度な機構。
二足歩行ができるロボットができたのはごく近年、バランスをとる装置は非常に難しい。
人工衛星のようなジャイロやリアクションホイールといった回転体を使わない人間は、ギリギリのバランスを筋肉や体の偏位で保持する。

では、どのように失われた顎位を取り戻し、偏位を消失させるのか。

続きます