今回からは歯科領域では抗菌剤は何を使うか、ということを書いていく。
感染症で問題になる細菌は、各臓器・領域で異なる。
親知らずの腫れで問題になる細菌と、腸炎で問題になる細菌は違うのだ。
狙いとする細菌が違えば、使用する抗菌剤は違ってもいいはずだが、どうも歯科医は医科の処方をまねしたがるきらいがある。
原因菌が割と絞られる口腔領域では、医科で処方するような広域なスペクトルを持つ抗菌薬は必要ない。

口腔内には、とんでもない数の種類の様々な常在菌がいる。
人間の抵抗力が落ちた時などは、その常在菌が感染症として悪さを始める。
そして感染症として症状を出すのは、いわゆる感染力の強い細菌から。
抗菌剤の効きにくい緑膿菌は、院内感染などで大問題となっているが、実はこれも常在菌。
間違っても健常者に問題をおこしたりはしない。
長期入院などで抵抗力がガタ落ちになると、ときおり歯ぐきを腫らしているような細菌だけでなく、感染力の弱い様々な細菌までもが感染症の起因菌となってくるのだ。
このような細菌が問題となる状況では、もはや歯科医師の手を離れている。
なぜなら、口腔領域どころか、全身に重篤な感染症がおきているから。

このことをふまえると、たたくべき細菌は限られてくる。
我々のような個人開業の歯科医師のもとには、重篤な全身症状の患者はこない。
医院まで歩いて来れる患者と、病院のベットで管理されなければまずい患者とでは問題となる細菌は異なる。
だから、国家試験で出てくる起因菌全てをカバーしようとするのはナンセンス。

歯科医院に普通に来れる患者で問題になる細菌は以下の通り

➀Streptococcus Anginosus 属 (グラム陽性連鎖球菌)
➁Peptostreptococcus 属 (嫌気性グラム陽性球菌)
➂Prevotella 属 (嫌気性グラム陰性桿菌)
➃Fusobacterium 属 (嫌気性グラム陰性桿菌)

国家試験でよくでる➃のFusobacterium属は、実はほとんど日常の臨床での起因菌にならない。
つまり、➀~➂の細菌属をカバーすれば、ほぼ足りるということ。
この3属を選択的にたたき、ほかの細菌群を可能な限りたたかないのが、歯科における理想的な抗菌薬ということになる。

続きます