歯科における理想的な抗菌薬を選択するにあたり、外しておきたい抗菌薬をみていこう。
外しておきたい抗菌薬は、ほかに替えの効かない抗菌薬。
この細菌には、この薬でないとダメ、というものは結構あるのだ。

まずはマクロライド系抗菌剤。
製品としては、ジスロマックやクラリスなど。
この薬が威力を発揮するのは、呼吸器疾患。
この薬は、抗菌スペクトルはとても広く、細胞の中にまで入り込む特性を持っている。
したがって、細胞内に寄生するタイプの細菌に有効。
細胞の中にまで入ってくれる抗菌薬はそんなにはない。

代表的なものとして、マイコプラズマがある。
マイコプラズマ肺炎は、小児に多くおこる肺炎肺炎で、普通の抗菌薬は細胞に入りこめないため効かない。
キノロンやテトラサイクリンも細胞に入るが、キノロンは小児安全性が確立されておらず、テトラサイクリンは歯牙形成期にあたる小児にはテトラサイクリン歯をおこす。
だから、マクロライドが第一選択となるわけだ。
ところが、マクロライドの乱用で、マクロライド耐性を持ったマイコプラズマが激増して問題になっている。

また、マクロライドは呼吸器に集積するため、難治性の呼吸器感染症には欠かせない。
びまん性汎細気管支炎などは、マクロライドの少量長期投与が治療法として確立するまでは、予後不良の疾患だった。
呼吸器科の治療には、マクロライドというカードがなければまずい疾患が多々ある。

ほかにも、重要な使い方として、ピロリ菌の除菌がある。
ピロリ菌は、胃がんや胃潰瘍、特発性血小板減少性紫斑病などの原因菌であり、発見されたのは1980年代と新しい。
このピロリ菌の駆逐には、マクロライドが欠かせない。

このようにマクロライドは代替しにくい用途がある。
しかし、この薬は耐性獲得が非常に早い、グラム陽性菌の半数ほどがすでに耐性がある。
さらに、交叉耐性といって、ひとつの薬剤に対して耐性を持つと、ほかの類似薬剤に対しても耐性を持つことを引き起こしやすい。
とにかく、マクロライドは耐性化が大問題。
つまり、本命となりうる疾患以外には使うべきではないのだ。

ところが、歯科では歯周内科などとうたって、歯周病の治療にマクロライドを使うヤカラがいる。
薬を服用して、歯周病を治療というのはまず間違いなくマクロライド。
確かにバイオフィルムを溶解し、組織に薬剤が集積するマクロライドはうってつけにみえる。
患者にしても、目に見えて改善するのだから、ウケは良い。
たった一日の講習で認定医がとれるので、よく考えもせずこれに走る歯医者がいて問題視されている。
しかしマクロライドを使わずとも、機械的に病巣となりうるものを除去し、しかるべき処置をおこなえば歯周病は寛解を得られる。
歯科の治療ごときでこんな貴重な薬を使うのは言語道断である。

しかし私の医院でマクロライドが適用になる場合がある。
マクロライドは肝臓で代謝されるので、腎疾患がある場合。
他剤剤にアレルギーがある場合。
そして口腔内に、STD(性感染症)などによる、細胞寄生型微生物などがある場合である。

続きます