唾液を作り出す組織、唾液腺にはいくつか種類がある。
まず大まかに、大唾液腺と小唾液腺。
大唾液腺はさらに、耳下腺、顎下腺、舌下腺に分けられる。
耳下腺は、耳の前下方に位置する最大の唾液腺で、漿液性というさらさらした唾液を分泌する。
顎下腺は舌後方下部、舌下腺は舌の下前方に位置し、粘液性と漿液性の混合唾液を分泌する。
進行したシェーグレン症候群では造影検査で、耳下腺にアップルツリーサインという、組織破壊像を呈する。
大学病院では口腔外科で診察を受けたらしい。
その時の診断法に問題があった。
ガムを噛んで唾液の分泌量を測定するガムテスト。
これをメインに問診等をおこなっただけ。
これでは全く診断にならない。
口腔外科ではガムテストを、唾液の分泌量の診断に使うところが多い傾向がある。
しかし唾液は食事などの咀嚼時によく出る刺激唾液と、安静にしているときにでる安静時唾液がある。
そして、安静時唾液の分泌に大きく関係があるのが、耳下腺。
夜中の口渇は、耳下腺の安静時唾液の分泌低下による可能性を頭にいれなくてはならない。
ガムテストでは刺激唾液はチェックできても、安静時唾液はチェックできず片手落ち。
仕方ないので、K医大病院に紹介状を書く。
あて先は、眼科。
血液検査を含めての診断を依頼した。
シェーグレン症候群の確定診断には、血液の生化学検査が有効。
シェーグレン症候群の患者には抗SS-A抗体と抗SS-B抗体が高頻度で検出される。
果たして結果は、シェーグレン症候群であった。
検査では、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体ともに+。
それだけでなく、RA(リウマチ因子)+。
RA+を受けて、追加でおこなったCCP 抗体も+。
つまり、症状はまだないもののリウマチを合併していた。
CCP抗体検査は、症状のない初期の関節リウマチにも有効な診断法。
シェーグレン症候群は、約2割程度の患者が、同じく自己免疫疾患であるリウマチを合併するのだ。
今回のケースでは、夜間の口渇に加え、舌苔の厚積もひとつの診断補助となった。
舌は乾燥などの刺激があると、舌苔は舌を守るために厚積する。
特異的な口腔乾燥を見逃さなかったことが、確定診断を呼び込んだ。
リウマチを見つけたのは、大きなおまけ。
ただ、シェーグレン症候群のみならず、リウマチの早期発見と治療開始は良好な予後となることが多い。
味付けの濃さが発端だが、人間の体は感覚というセンサーのかたまり。
感覚の異常を感じたら、迷わず医療機関を受診すべきだ。
忍びよるリューマチ 完