三叉神経痛には、軽く触れただけで激痛を引き起こすトリガーポイントという部位がある。
この患者のトリガーポイントは、3の唇側付着歯肉部。

神経科に送る前に、使用してもらった薬剤があった。
プラチナノテクト、私の所属していた北大歯学部第一保存科と北大工学部の共同開発薬。
白金のナノコロイドを配合してある。
厳密には薬ではなく、洗口剤という扱い。
薬として承認されるには、煩雑な手続きが必要なため、洗口剤という形をとった。
重症の扁平苔癬や、放射線性口内炎などに効果を示す。
私の使用感では、不定愁訴に劇的に効果があることがあり、ときおり使用する。
そして、この患者に使用すると寛解した。

デキサルチンとプラチナノテクト、この二つが効果をあらわしたのはなぜか。
プラチナノテクトには溶媒としてグリセリンが使用されている。
デキサルチンは唾液を吸収し、塗布部位を守る。
両者に共通する要素は、水分。
トリガーとなっていたのは、局所的な乾燥。
唾液がまわらなくなったときに、刺激が三叉神経痛を惹起していた。

三叉神経痛の治療は大まかにいうと、原因療法と対症療法に分けられる。 
原因療法は、神経を障害している血管の走行を変えること。
そして対症療法は、原因を取り除くことなく症状を緩和させること。

緩和する方法はいくつかある。
ひとつは、トリガーポイントへの刺激自体を抑制する方法。
二つめは、刺激の伝達経路である神経をシャットアウトしてしまう方法。
前者は人間として活動している以上、なかなか難しい。
テグレトールは後者に属し、神経伝達を抑える働きがある。
他にも神経を遮断するブロック注射なども、程度の進んだ三叉神経痛に効果がある。

前医の処方したデキサルチンは図らずも、トリガーポイントへの刺激を遮断する対症療法となっていたのだ。
ただし、薬剤の持つ薬効でなく、たまたま基剤がトリガーポイントを保護しただけ。
薬剤がとれてしまえば、症状は出る。
三叉神経痛を確定できなければ、あいまいな治療となり寛解は望めない。

幸い、三叉神経痛を特定できたこの患者はテグレトールがすんなり体にあった。
大きな副作用もなく、日常生活に支障ないレベルにまで寛解した。
もちろん原因を除去できたわけではないので、ときおり軽度の疼痛を発する。

ところが、テグレトールが体にあわない人もいる。

続きます