歯周病治療法の違い
細菌除去の治療法
前回は、日本歯周病学会のガイドラインに準処した機械的な治療法を解説した。
これが、抗生剤を利用した内科的治療法とどのように異なるのか、見ていきたい。
歯周病細菌の除去
歯周病治療として、基本にあるのが、歯周病病原体の除去。
これは、どちらの治療法にも共通するが、手段が異なる。
機械的な除去
歯面の汚染源の直接的な除去である。
直接歯垢や歯石を除去するため、細菌叢を乱さない。
歯周ポケットを浅くすることで、嫌気性菌の住みづらい環境をつくる。
歯周ポケットの深さをはかるポケットプローベ
抗生剤による除去
薬物の服用による、感染源の死滅を狙うもの。
口腔内に限局せず、腸内などの常在菌の細菌叢を大きく破壊する。
結果として、菌交代現象や、耐性菌の誘導をおこなってしまう。
歯石の除去がおこなわれていないと、病原菌の再定着の場となるため、歯周炎が再発しやすい(再発性歯周炎)
治療法による歯周病の予後
機械的な病原除去では、歯面の滑沢化と毒素に汚染された歯牙表層の除去がおこなわれているため、再発性歯周炎のリスクは低い。
対して、抗生物質による病原除去では、病原体の侵入がおこると速やかに定着する足場となるものが残っている。
その足場となるものが、カンジダ菌という理論で、それを防ぐために抗真菌薬を使用するというものであったが、これは日本歯周病学会の公式見解では否定されている。
つまり、抗生剤の除去では一時的に目に見える形での速やかな効果があるが、その後の予後は機械的除去に比べ劣る。
なにより、マクロライドのような抗生剤を服用すると、細菌叢には菌交代がおこる。
通常であれば問題にならない細菌が、主要な細菌の死滅の結果、空いた縄張りに活動勢力を広げるために様々な症状がおこる。
増殖力に劣るが、強い病原性を持つ細菌などに置き換わってしまうことがある。
CDIなどはその典型(詳しくはこちら)
最大の問題は、マクロライドは非常に耐性菌を誘導する能力が高いこと。
そのため、大病院などでは使用制限がかけられている。
安易な使用により、耐性菌が誘導されてしまうと、問題が出るのはずっと先。
病院での耐性菌による集団死は、抗生剤の乱用の結果にほかならない。
抵抗力のなくなった高齢期に、病原体として耐性菌が猛威をふるうのだ。
マクロライドは代替できない場合がある。
他に有効な治療手段がある歯周炎治療に使用すべきではない。
いざというときに、使用できる抗生剤がなくなってしまうのだ。
まとめ
マクロライド系抗生剤は、一時的には歯周炎を寛解に導く。
症状は落ち着くとはいえ、決して歯周病は治っているわけではない。
そして、それと引き換えに、大きなリスクを患者に残す。
そのことを理解したうえで、治療は選択されるべきだ。
続きます。