常在菌とは

歯周病菌が常在菌ということを書いた。
では、常在菌とはどのようなもので、どのような働きをしているのだろうか。

細菌フローラ

腸内フローラという言葉を聞いたことがあるであろうか。
フローラというのは、花畑という意味。
これは、腸内には何千種類もの細菌が、あたかも花畑のように生息していることからこの名が付いた。

このようにある特定の環境で生息する細菌の集団を、細菌叢(さいきんそう)という。
そしてその細菌叢は一種の生態系を構成する。
優位な細菌は大きな勢力を持ち、繁殖力などの劣る細菌は細々と生きている。
勢力に応じて縄張りがあるようなのが、細菌叢の状態。
そして新たに侵入してきた細菌に対しては、細菌叢が攻撃を加えることで、環境を守ろうとする。

細菌との共生

実は人間は細菌の助けなしには生きられない。
胎児のうちは細菌感染はゼロであるが、産道通過の瞬間から細菌の感染は始まる。
感染というより、取り込みというのが妥当かもしれない。

母乳にも、乳児にはあまり吸収されないが、善玉菌の栄養となる母乳オリゴ糖が含まれており、好ましい細菌叢の形成を後押しする。
そして安定した細菌叢を形成することで、人間も含めた生活環境が完成する。
初期の粉ミルクにはオリゴ糖などが配合されていなかったため、乳児の細菌叢の形成がうまくいかず、母乳育児に比べ抵抗力が弱いという時代があった。

人工乳中に配合されたオリゴ糖
人工乳

例えば、腸内細菌叢であると、いくつかの働きがある。
・病原体の細菌叢への一次侵入の阻止
・食物繊維の消化
・ビタミンの合成
・腸内環境の維持
などがあり、特に腸内における免疫の過半を、腸の上皮細胞とともに担っている。

これらの細菌叢との共生の結果、人間は健康な生活を送ることができるのだ。

菌交代現象

もしここに、細菌を倒す抗生物質が投下された場合、ある種の細菌がまるまる消えることで、縄張りに空きが出る。
そのあいた縄張りに、好ましくない細菌が勢力を拡大して居座る。
これが、菌交代といわれる現象。
以前も「抗生剤と下痢」で解説している。

ちなみに、口腔内にも細菌フローラが構成されている。
ホルモンバランスの乱れやその他の条件で、細菌叢が崩れ、若年性歯周病など、劇症型の侵襲性歯周炎がおこることがある。
抗生剤の投薬などでも、常在菌が死滅し、抗生剤に感受性を持たないカンジダが勢力を伸ばす口腔カンジダ症がおこる。(詳しくはこちら)

細菌叢を守れ

このように長い時間をかけて築き上げた細菌叢、この生態系をなるべく壊さないことが好ましい。
細菌叢にとって、抗生剤は嵐のようなもの。
縄張りを守って生活している細菌の環境をズタズタにする。

その影響を最低限にするためには、可能な限り狭い抗菌スペクトルの抗生剤を選択し、目的とする細菌のみをたたくことが望ましい。
その点において、マクロライドやテトラサイクリン系の抗菌剤は最悪に近い。
使用をすれば、空いた細菌叢の縄張りに、耐性菌を植え込む隙を与えてしまう。
このような抗生剤を使用するのは、やむを得ない時のみに限定すべきなのである。