以前勤めていた職場での症例。
患者は30代後半男性。
若くして脳梗塞を患い、半身まひになってしまった。
詳しくは書けないが、幸い手に職があったため生活に困窮することはなかった。
子供も小さく、一生懸命リハビリに励まれていた。
当初は通常の歯科治療で来院。
あるとき、睡眠時無呼吸外来からの手紙を携えてこられた。
睡眠時無呼吸症候群の専門外来が近くの病院にあり、受診して当疾患と確定された。
半身まひの結果、咽頭、咬頭の領域の筋肉が不随意となってしまい、舌の重力への抵抗が不十分になってしまったためである。
一日入院して一時間当たりの呼吸停止頻度を調べたところ、31回。
これは重度の睡眠時無呼吸症候群の数値。
治療に当たり、ドクターはマウスピース治療を選択、その作成を私に依頼してきたのだ。
通常、歯科では、睡眠時無呼吸症候群の診断はできない。
睡眠時無呼吸症候群の外来で、精密検査で確定診断されたものに対して、装置の作成を請け負う形となる。
装置としては、上下顎のマウスピースを連結し、下顎の後退をさせないことで、舌の後方沈下を抑止するというもの。
上下額で印象をとり、下顎の前方位を無理のないぎりぎりの位置に誘導、咬合際得する。
上下額は完全に固定しない、セミクローズタイプ。
基本的に下顎は前方に位置するが、呼吸のために少し開口できるタイプとした。
フルクローズにしない理由は、患者が半身まひであるため。
もしマウスピースが不慮の嘔吐などで、急に外す必要があった時、片方の手で外せないことを想定したため。
開口できれば、とりあえずの気道確保ができるとの配慮からである。
完成したマウスピース。
上下額はロッドで連結され、ある程度開口できる。
最大開口時
装着の様子
とりあえずしばらく使用していただいた。
ところが、開口しようとする力に耐えられず、ロッドが破損してしまった。
この時点で、セミクローズタイプは選択肢から外れてしまった。
いろいろ考えるが、なかなか思いどうりにいかないのが医療。
やむなくフルクローズタイプに改造する。
破損したマウスピースのロッドと取付け部を除去し、下顎前方位に咬合器上でマウントする。
上下額はユニファーストクリアにて固定、上下額間に何か所か通気する穴を設ける。
キサンタノで模型をマウントし、上下額間を即時レジンにて固定した状態
口腔内装着の様子
今度は、使用成績は良好だった。
その後の検査で、一時間当たりの呼吸停止頻度は、1回未満。
完全に舌の後方沈下を抑え込めた結果となった。
患者はその後も良好に経過した。
リハビリの経過もよく、車いすから杖へとかわり、順調に回復していっている。
脳梗塞からの復帰、歯科医のできることは限られているが、治療の一助となれて幸いであった。
その後私は独立して、その医院を離れたが、その患者の親戚が当院を受診され近況をお話しいただいている。
ずいぶん良くなり、同年代としてはうれしい限りである。
睡眠時無呼吸症候群 完