高校で化学を学んだ人であれば、イオン化傾向というのを聞いたことがあるだろう。
イオン化傾向というのは、イオンになりやすさ、この場合は腐食されやすさと考えてもらってよい。
以下にイオン化列を示す。
語呂合わせで覚えた記憶があるが、ここには書かない。
Li > K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H2) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au
上記にある銀歯の組成のうち、イオン化傾向の大きな金属があるのがわかる。(赤字部分)
酸などの水溶液中では、イオン化傾向の異なる金属があると局部電池を形成する。
銀歯を入れてる人は、ガムの銀紙を噛んだときの不快感をご存じだろうか。
あの感覚こそ、局部電池。
局部電池が形成されると、イオン化傾向の大きな側の金属は酸化され、イオンになって溶出する。
溶出したイオンは消化管に運ばれて、一部が人体に吸収される。
歯科用合金によるアレルギーはこのようなメカニズムでおこる。
口腔内は凄まじいPHの変化にさらされている。
その中で、銀歯表面に析出した異なる金属が局部電池を形成するのは避けられない。
金合金には、それがない。
見た目は銀色でも、銀歯の表面ではこのようなミクロの腐食部位(酸化被膜)が無数にできている。
そして困ったことに、この皮膜は歯垢に対して親和性が高い。
要は、歯垢が付きやすいのだ。
私も子供のころの不摂生でクラウンが入っている。
上顎の見えないところの銀歯を近年、金合金に作り替えた。
金合金の歯垢をまったく寄せ付けない性状に驚いた。
金属の違いが、こうも表面性状に違いをもたらすのかと。
代用合金は、所詮代用合金以下でしかないと実感した。
銀歯は通常歯ぐきより約0.5ミリの位置まで埋め込まれる。
このような歯垢に親和性の高い金属が埋め込まれることで、常に歯ぐきは炎症をおこす。
その結果、歯周ポケットは深くなっていき、歯周病が進行していく。
深くなった歯周ポケットは銀歯の下に残る歯の根面を露出させ、付着した歯垢と相まって、う蝕をおこす。
銀歯を入れた直後は良くても、経時的に大きなダメージを受ける。
歯磨きや定期的なクリーニングでも、ダメージを軽減させるだけで、じりじりと進行してくる。
これが保険の銀歯や前装冠といった代用補綴物の宿命。
金歯やセラミックなどの保険外の正しい補綴物とは、高齢時に至った時の残存数に大きな乖離がある。
もともと一生もつものでなく、保険はあくまで最低限の機能回復を目的としたものなのだからだ。
銀歯が一生もつものならば、それは別に代用品ではない。
日本の保険医療は、国民全員が安価に最低限の治療を受けれる、世界唯一の誇るべき制度である。
病気になっても、医療を享受できる環境の何と素晴らしいことか。
しかしながら、それは最良の選択肢ではない。
最低限の選択肢。
だからこそ、自身の健康を考えるゆとりと意識があるならば、他の選択肢を考えてみてはいかがだろうか。
60年前には日本に飛ばせなかったロケットは、いまや小惑星に行って戻ってくるまでになっている。
歯科医療は見えないところで大いに進歩している。
必ずやあなたの健康と人生に大きな福音をもたらしてくれる。
銀歯を考える(完)