放射線療法による口腔障害

前回は、化学療法による副作用を扱った。
今回は、放射線の治療法による障害を解説する。

放射線治療

近年、放射線治療の進歩は目を見張るほどである。
組織を切ることなく、ガンを縮小や消滅することができる。

放射線は、細胞にとって有害なのは論を待たない。
しかし、その有害さを逆手にとったのが放射線治療。

細胞には様々な種類があるが、放射線に対する強さは一律ではない。
放射線に強い細胞もあれば、弱い細胞もある。
細胞の放射線に対する影響を感受性という。

放射線のターゲット

放射線が作用するのは、核内染色体のDNA。
そのガンへの殺傷は二つある。
ひとつは傷つけられたDNAにより、分裂情報を失って、分裂できなくなる分裂死。
もう一つは、修復不能なDNA情報を基にした、細胞自身の自爆(アポトーシス)。

放射線が作用する相手であるDNAであるが、細胞分裂の活発なものほど感受性が高い。
神経細胞などの分裂をほとんどおこさない細胞は感受性が弱く、逆に粘膜細胞などの分裂が盛んな細胞は感受性が強い。
ガン細胞は、分裂が非常に旺盛。
それゆえ、非常に放射線感受性が高い。
これを利用したのが放射線治療。

目標とする組織に放射線を照射すると、正常細胞はダメージが少ないが、ガン細胞は大ダメージを受ける。
これが、放射線治療の原理。

放射線治療

ガン治療に用いる放射線は、原子力施設などでの基準と比べると、非常に強力。
基準では、一般人は毎年1ミリシーベルト。
放射線従事者では、5年平均で、年あたり20ミリシーベルト。
ところがガン治療では一回照射量が、2000~3000ミリシーベルトにも及ぶ。

これらの放射線をまともに浴びてしまうと、さすがに正常細胞も大きな影響を受ける。
それを防ぐため、あらゆる方向から放射線をあてる。
放射線の通過部位は毎回異なるが、目標とするガン領域は常に放射線を浴びているようにするわけだ。
また、ガン領域で焦点を結ぶような照射のしかたもとられる。

このようにして、ガンには厳しく、生体には優しいのが現在のがん治療

がん治療に使用する放射線は、想像を絶する強さ
放射線治療

放射線治療の口腔に与える影響

口腔ガンや咽頭ガンで口腔に放射線の被ばくがおこると、厄介である。
口腔粘膜は比較的増殖の盛んな組織。
放射線により粘膜の増殖は阻害され、重度の口内炎、粘膜炎をおこす。
これにより重度の摂食障害をおこし、治療計画のみなおしを迫られることは稀ではない。
放射線治療終了で回復するが、予後は長く1か月ほど平癒にかかる。

また、唾液腺などの腺組織も大きなダメージを受ける。
障害を受けた唾液腺は、再生が困難である場合が多く、生涯口渇に苦しむ場合も多い。
唾液の減少により、う蝕や歯周病のリスクは極めて高くなる。
味覚障害や、嚥下障害も併発しやすく、QOL(クオリティ・オブ・ライフ/生活の質)は大きく低下する。

歯科医としては、顎骨に与える影響が一番深刻。
骨芽細胞などが放射線の影響で、再生能が著しく低下している場合があり、骨への侵襲が困難になる場合がある。
再生能の低下している骨組織に、抜歯などの外科処置を行うと、治癒不全や、顎骨骨髄炎をおこすことがある。
そのため、原則、放射線治療後の抜歯などは禁忌とされる。

命あっての物種だが、なかなかその予後は大変である。
続きます