上顎の基本的なAIデンチャー
今まではどちらかというと、解決に労力を要した特殊な症例ばかり紹介していた。
ここらで典型的な症例を上下顎それぞれ紹介しようと思う。
まずは、今回は上顎の症例から。
70代前半女性。
クラスプ(金属バネ)が見えるのが嫌とのこと。
使用していた義歯は、保険適用の床タイプ。
口蓋まで広く覆うタイプで、左右の犬歯にクラスプがかけられている。
特筆すべきところがないくらい、ありふれた設計である。
AIデンチャーでクラスプを目立たない方向で補綴していく。
残存歯の状況
上顎の残存歯列
設計
口蓋部を広く覆っていたレジン床を、メタルプレートで置き換える。(保険ではルールで金属床はできない)
メタルプレートはドイツ製のウィロニウム合金を使用することで、厚さが5ミリから、0.3ミリ程度まで薄くできる。
これだけ薄くしても、剛性ははるかにアップできるので、口蓋部を省略した構造にし、快適性を向上させる。
さらにメタルプレートを歯頸部にぴったり沿わせ、歯車のように維持をとることで、水平方向への動揺を殺すようにする。
これでものをかんでも、力が逃げない高剛性の入れ歯となる。
クラスプは、見えるところはクリア樹脂で目立たなくする。
残存歯が少ないため、少々厚めに設定し、確実な維持を狙う。
試適
口腔内でのウイングは、ほとんど目立たない。
特に透明にしなくても大丈夫なくらい、状況は良い。
試適用咬合床の正面観
同側面観
口腔内の試適の様子
完成
狙い通り剛性に富んだ入れ歯が出来上がった。
口腔内の状況も、全く入れ歯とわからず、非常に良好。
完成したAIデンチャー。咬合面
側面からみたAIデンチャー。クリアウイングが良くわかる
口腔内のAIデンチャー。目立たない。
自然な仕上がりで非常に満足された
総論
今回はAIデンチャーとしては、全く問題なく入ったケース。
このような典型的な症例では、特に苦労することはない。
簡単な設計ゆえ、剛性をあげることで、咬合能力と快適性をフルに引き出した。
口腔内を広く厚く覆っていた義歯床は、薄く小さくなり、それなのに何でもおいしく噛めることは、患者は想定していなかった。
そのため、望外の性能に、非常に喜んでおられた。
実は、これこそAIデンチャーの真骨頂。
剛性を徹底して上げることで、食べれる入れ歯にすることこそが、AIデンチャーの真価。
見た目も重要だが、それ以上に入れ歯というものの本来の価値を発揮できることこそ、あるべき補綴の姿である。