歯周病の進行と病態

その歯周組織が侵される疾患こそが、歯周病。
歯周病は大まかに2つのステージからなる。

歯肉炎

歯ぐき単体の炎症である、歯肉炎。
歯を磨くと血が出るのは、歯肉炎そのもの。
細菌を倒す白血球が歯周組織に到達しやすいよう、血管壁を穴だらけにしているためだ。
決して細菌が血管を障害しているわけではない。
それゆえ、歯磨きなどで清掃状態が良好になると、血は出なくなる。
歯肉炎は、主に35歳以下の成人に見られ、特に歯間部の清掃しにくい部位に好発する。
歯間ブラシを使うことで改善できる。
この炎症は、可逆的なものであり、原因が除去されると組織は正常に戻る。

正常な歯周組織
歯周組織図

歯周ポケットへの汚染
歯周ポケット

歯肉炎。支持組織への影響はまだない
歯肉炎の様子

歯周炎

歯肉での現象

歯肉炎が亢進すると、徐々に深部への影響が出てくる。
細菌や免疫応答の結果、接合上皮は容易に接着をはがされ、歯周ポケットと呼ばれる歯と歯茎の間の溝は深くなる。
深くなると、酸素の届きにくい環境ができるため、病原性の強い嫌気性の歯周病菌が定着し、さらなる歯周ポケットの深化がおこる。

歯周病の進行。結合組織性付着の破壊がおこる
歯周病の進行段階

深くなった歯周ポケットの内部では、プラーク(歯垢)や縁下歯石の滞留がおこりがち。
この段階になると、歯周病菌や免疫応答により生み出されたコラゲナーゼ(コラーゲン分解酵素)により、結合組織性付着のコラーゲン繊維の破壊がおこる。
破壊された結合組織性付着は、その前線を後退させ、さらなるポケットの深化を招く。
一度後退してしまった結合性付着は、原因を除去しても元の位置には戻らない不可逆的なもの。
それゆえ、歯周病が治った、というのは言葉のあやで、現状を比較的良い状態で維持していることである。

歯槽骨への影響

歯周炎がすすむと、歯ぐきだけでなく歯を支える骨(歯槽骨)にまで影響が出てくる。
骨は人体にとって大事な組織。
炎症のある部位からは、炎症性のサイトカインが放出され、それを受けて破骨細胞が活性化し、骨の破壊をおこなう。
骨は大事ゆえに、細菌がいて炎症をおこしている部位から遠ざけようとする仕組みである。
誤解されがちであるが、細菌が骨を溶かしているのではない。
そして一度後退した骨は、元に戻ることはない。

骨が後退すると、歯を支えている歯根膜の面積は減少し、徐々に歯は支えを失って動揺するようになる。
こうなると、病態はすでに末期で、放置すれば歯は脱落の憂き目にあう。

骨の支持が失われていく歯周病の末期
歯周病の末期の様子

歯周病に侵された歯牙。黒くて固い縁下歯石に覆われている
縁下歯石

総論

歯周病は、歯肉炎を超えたところから、不可逆的な病変となる。
歯垢や歯石、細菌の除去などをおこなっても、失われた組織がもとに戻ることはない。
また、静かに進行し、症状が出た時にはすでに重篤な状況になっていて、手を付けれないこともよくあることである。
日頃からのケアと、定期的な歯石除去こそが、歯周病から歯を守る絶対の方法である。

続きます